拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたにしか出来ないこと

あなたへ


俺の字、汚いよね


先日、宿題をしていたあの子の一言から、あなたが書く、字の話になりました。
あなたの字は、均等で、真っ直ぐで、
とても、綺麗な字でした。


俺が小学生の頃、親父に教わったんだ


そう話してくれたのは、あの子が小学生の頃でしたね。
そして、小学生だったあの子に、
字を綺麗に書くコツを教えてくれたあなた。


ゆっくりでいいんだよ


あの子の隣に座って、
あの子と一緒に、ノートを覗き込んでいるあなたの姿を思い出していました。


ただ、あの頃のあの子にとって、
字を綺麗に書くことは、あまり、重要なことではなかったのかも知れませんね。
少し経つと、元に戻ってしまうあの子の字を見ながら、
あなたは、苦笑いをしていましたっけ。


あの時、あなたがどんなふうに教えてくれていたのか、
あの子も私も、具体的な内容が思い出せませんでした。


あなたを見送り、成長と共に、あなたに似てきたあの子ですが、
字だけは、どうも、似ることが出来なかったようです。


もしも、今、あなたが側にいてくれたのなら、
きっと、何度も教わりながら、
あの子の字は、今頃、あなたに似ていたのでしょうか。


お父さんの字を真似したいのに、出来ない


あの日、あの子は、そんなことを言っていました。


小学生だったあの子には、
きっと、まだ教える時期が早かった、字を綺麗に書くこと。
今のあの子なら、
真剣に、あなたから、学ぼうとしたでしょう。


今が、あの子に、あなたの字の書き方を教える時期だったのかも知れませんね。


そんなこと、私にも出来るはずだと言われてしまいそうですが、

あの子から見た私の字は、
女みたいな字だから、嫌だそうですよ。


あなたから、教わりたかったことは、山ほどあるあの子ですが、
あなたみたいな綺麗な字の書き方も、
あなたから、学びたかったことのひとつのようです。


あの子と、あなたの字の話をしながら、
またひとつ、
あなたにしか出来ないことを見つけました。

 


P.S


私が、あなたの書く字を初めて見たのは、
出会ってから、暫くが経った頃でした。


確か、お店の会員になるために、住所や名前を書いたあなたの字を見て、
私は、密かに驚いたのでした。


なんて綺麗な字を書くのだろうって。


あの時、あなたの素敵なところを、またひとつ見つけた私は、
とても、嬉しい気持ちになったのでした。


口に出したことはありませんでしたが、
私は、あなたが書く綺麗な字を、
とても自慢に思っていましたよ。

 

 

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帽子

あなたへ


先日、あの子の部屋を何気なく見渡すと、
高いところに飾ってある、あなたの帽子が目に留まりました。


何故だか分かりませんが、
自分の居場所は、ここだと言わんばかりに、
そこにあるように見えたその帽子は、
ひっそりと、あなたを待っているようにも見えました。


眩しいのが苦手で、
家族で出掛ける時には、いつも帽子を被っていたあなた。
気に入った帽子を長い期間被っては、
時期が来ると、買い替えながら、
あの帽子は、何代目の帽子だったでしょうか。


ここに引っ越して来てから、ずっと、
あの子の部屋に飾ってあったはずのあなたの帽子ですが、
あの日、何故だか、目に留まり、
長い間、あなたの帽子を見つめました。
そして、その帽子を被っているあなたの顔が浮かびました。


それは、笑って、私に話し掛けるあなたの顔でした。


思わず、目を閉じて、そんなあなたの顔を鮮明に思い出してみると、
そこには、触れられそうな程、すぐ近くに、あなたがいました。


こんなふうに、あなたが側にいてくれた間に、
もっと、たくさん、言葉にして、伝えなければならなかったことがありましたね。


あなたを、どんなに大切に想っていたのか。
あなたが、どんなに掛け替えのない存在だったのか。
あなたを、どんなに愛しているのか。


瞼の裏の、決して触れることの出来ないあなたに、
涙を見られないように、しっかりと目を開けると、
小さなため息を吐きながら、あの子の部屋を出ました。


私は、あなたが側にいてくれた間に、
どれだけ伝える事が出来ていたでしょうか。


私が思っているよりも、
たくさん、伝わっているといいなと思います。

 

 

 

 

新しい手帳

あなたへ


先日、来年用の手帳を買いました。


新しい手帳を買うと、
まずは、2月5日のページを開く私は、
毎年のこの時期、
あなたの誕生日を知った日のことを思い出します。


あなたと出会って、初めての秋。
翌年用の可愛い手帳を買ったばかりの私は、
あなたに見せたくて、新しい手帳を持って、あなたに逢いに行きました。


ねぇ見て、可愛いでしょ?


そんな私の言葉にあなたは、


来年の手帳買ったんだ?可愛いね


そう言って、私の手帳を眺めると、言いましたね。


俺の誕生日はね って。


そうなんだ?


なんて、聞き流す振りをした私に、


え?手帳に書いてくれないの?って、
あの時のガッカリしたあなたの顔が、可笑しかった。


あの日、家に帰ってから、
新しい手帳に、いちばん始めに書き込んだのは、あなたの誕生日でした。


お気に入りのペンを使って、
お気に入りのシールを貼って、
可愛く仕上げたその日は、
あの日から、私にとって、いちばん大切な日になりました。


あれからの毎年、新しい手帳を買うと、
私は、決まって、
いちばん始めに、あなたの誕生日のページを開くようになりました。
そして、毎年、
あの日のあなたの、ガッカリした顔を思い出して、笑ってしまいます。


あの時、何故すぐに、あなたの誕生日を手帳に書かなかったのかって?


だって、
あなたに見られていたら、恥ずかしくて、書けません。


ハートマークで派手に飾った、あなたの誕生日。


どんなふうに、お祝いをしようかとか、
あなたの喜ぶ顔を想像する私の顔は、
絶対に、見られたくありませんでしたから。


新しい手帳。
いちばん始めに2月5日のページを開くのは、
これで、20回目になりました。


あなたが何処にいても、私にとって、特別な日。


こうして、新しい手帳を開くと、
あの頃のあなたに、逢えるような気がします。


俺の誕生日はね、2月5日だよ って。


低く、優しいあなたの声が、聞こえるような気がします。

 

 

 

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