拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

肩揉み

あなたへ

 

幼い頃、お爺ちゃんの肩揉みをした記憶があります。

 

上手だね

 

お爺ちゃんの背中越しに聞こえたその声が、とても嬉しかったことは、

大人になっても、時々、蘇った私の小さな思い出でした。

 

近頃、肩凝りが酷いあの子。

私なりのやり方で、あの子の肩が楽になるようにと、

心を込めて、肩揉みをしていたつもりでした。

あの頃、あなたにしていた時と同じように。

 

先日、あの子は、アルバイト先へ勤めている年配の女性に、

肩揉みをして頂いたそうです。

 

凄く上手なの

肩揉みしてもらっている間、痛くないんだよ

それでね、終わった時には、肩が軽くなって、凄く楽になったんだよ

 

アルバイトから帰ってきたあの子が、そんな話をしてくれました。

 

私のやり方とは違う、その女性の肩揉みは、

あの子の言葉を借りれば、

年季が入っているのだそうです。

 

どうやら、

私には、到底真似出来そうにない、技術が備わっている様子。

 

きっと、何十年も、ご主人の肩を揉んで来たんだね

経験が違うんだね

 

あの子とそんな話をしながら、

私は、あなたのことを思い出していました。

 

力仕事だったあなた。

 

マッサージをお願いします

 

そんなあなたの言葉に、

よくマッサージや肩揉みをしましたっけ。

 

楽になったよ

ありがとう

 

あの頃の私は、

そんなあなたの言葉に満足していましたが、

今頃になって、なんだか、不安になってしまいました。

 

私は、本当に、あの頃のあなたの疲れを、

楽にしてあげることが出来ていたのでしょうか。

 

あなたと結婚するまで、

肩揉みとは、あまり縁がなかった私に残る、

お爺ちゃんが褒めてくれた記憶。

 

よく考えてみれば、あの頃の記憶は、

孫可愛さに褒めてくれた、お爺ちゃんの優しさだったのでしょう。

 

何故だか、いつでも、

あなたの肩揉みをしながら、あの頃のことを思い出していた私は、

無意識のうちに、ほんの少し、自信を持っていたのだと思います。

 

そこそこ、上手に出来ているのだろう なんて。

 

今、思えば、私の肩揉みは、随分と未熟なものであったと思います。

 

何十年と、長い時間を掛けて、

いつの間にか、上達している

 

そういうものなのかも知れませんね。

 

思わず、あなたの顔を見ながら、小さく独り言。

 

今更だけど、下手で、ごめんね。

 

そんな私の言葉に答えるように、

こちらを見つめるあなたの顔は、なんだか優しかった。

 

時々、あの子にしてあげる以外は、

誰かの肩揉みをすることがなくなった私。

 

私は、この先、どんなに年を重ねても、その経験がないまま、

あの子が話してくれた女性のように、上手になることは、

きっと、ないのでしょう。

 

あなたを見送り、色々なことを学んできた私ですが、

こんなふうに、

あなたが側にいてくれないと、学ぶことが出来ないことも、

これから、たくさん見つけていくのだと思います。

 

日常の中、積み重ねる小さなこと。

 

もしも、あなたが側にいてくれたのなら、

今の私は、あなたの側で、

どんなことを積み重ねていたのでしょうか。

 

気付かぬうちに、

今の私には出来ないことが、出来るようになっていたのかも知れませんね。

 

きっと、今の私は、

あなたの側で、何かを積み重ねる私とは、

別な何かを、積み重ねているのでしょう。

 

生きている限り、ゼロにはならないその何かが、何なのか、

今はまだ、よく分かりませんが、

いつか、あなたに、胸を張って報告できるような、

素敵な何かを、積み重ねることが出来たらいいなと思っています。

 

 

 

前世のあなた

あなたへ

 

前世のあなたに、恋をしてしまいました。

 

なんて言ったら、

あなたは、どんな顔をするのでしょうか。

 

それは、夢の中での出来事でした。

 

山の麓にあるお墓で、お線香をあげ、手を合わせていると、

いつの間にか、私のすぐ側に、お爺さんが立っていました。

 

私の顔を確認し、両手で私の顔を包みながら、

自分の方へ真っ直ぐに顔を向けさせると、

 

いいね

 

そう言って笑って、山の方へと消えていきました。

 

そうして、また別なお爺さんが現れ、同じように私の顔を確認すると、

また山の方へと消えていってしまう。

 

数人のお爺さんが同じようにしながら、

山の方へと消えていきますが、

夢の中の私は、そのお爺さん達が、

自分のご先祖様であるということを知っていました。

 

そうして、最後にやってきたお爺さんを見た瞬間、

私は、何故か、あなたなのではないかと感じました。

 

思わず、

 

あなたなの?

 

そう呟いた私に、彼は言いました。

 

そうだよ

これが前の姿

 

そして、

私を優しく抱き締めてくれたところで目が覚めました。

 

暗闇の中、時計を確認すると、眠ってから1時間程が経った頃でした。

もう一度、目を閉じて、

夢の中での出来事を反芻するには、充分過ぎるほどに時間がありました。

 

今の私が知っているあなたよりも、

随分、年上に見えた前世のあなた。

 

きっと、あなたは、

前世では、長生きをすることが出来たのでしょう。

 

長く色々なものを見てきた瞳も、

生きた年齢分、刻み込まれた皺も、

優しい笑顔も、とても素敵でした。

 

私をゆったりと抱きしめたその感覚だけが、

私がよく知っているあなたと、同じものでした。

 

きっと、前世の私は、

あの姿のあなたに、恋をしたのでしょう。

 

私たちは、今よりも長く、連れ添うことが出来たでしょうか。

 

2人で一緒に、色々なものを見て、一緒に年を重ね、

私も、あなたと一緒に、

お婆ちゃんになることが出来たでしょうか。

 

夢の中のあなたを想いながら、

その温もりを忘れないように、毛布をギュッと抱き締めました。

 

あなたは、何度でも、私に恋をさせてくれる人。

 

でも、前世のあなたまでもが、

今の私に恋をさせてくれるだなんて、思ってもいませんでした。

 

きっと、夢の中のように、

その姿がどんなに変わっても、

私は、あなたを探すことが出来るのでしょう。

 

この小指に繋がれた、赤い糸を頼りにして。

 

きっと、

私たちは、何度でも恋をする。

 

そう信じても、いいですか。

 

 

www.emiblog8.com

 

 

OFUSEで応援を送る

 

 

水筒

あなたへ

 

古くなってきたから、買い換えようかな

 

仕事用の水筒を眺めながら、ふと、

そんなことを考えた私は、

この水筒を買った日のことを思い出していました。

 

あれは、いつ頃のことだったでしょうか。

家族3人で、買い物へ出掛けた日。

 

水筒、買い換えたいな

 

なんて私の言葉に、

あなたがこの水筒を選んでくれたこと、今でも、よく覚えています。

 

これ、いいと思うよ

 

そう言って、あなたが指差した水筒は、

私ひとりで買いに出掛けたのなら、絶対に選ばないデザインのものでした。

 

あなたがいいと思うと言えば、

なんだか、それが良く見えてくる。

 

あの時、私は、何も迷うことなく、

あなたが選んでくれた水筒に決めたのでした。

 

思えば、あの頃の私の周りには、こんなふうに、

あなたが好むものと、

私が好むものが、当たり前に混在し、

それらを日常として、

何も考えずに、過ごしてきました。

 

あなたが選んでくれたもの全てに、

その時のあなたの想いが込められている。

 

そんなふうに気が付くことが出来たのは、

あなたを見送ってからのことでした。

 

あなたを見送り、これまでに、

いくつかのものを買い換えてきた私ですが、

古くなった水筒を手に取り、眺めながら、

ふと、考えてしまいました。

 

これから先、ずっと、

自分のものは、自分で選ばなければならないのだと。

 

それは、とても当たり前で、誰もが当然のことであるはずなのに、

ほんの少しだけ、胸の奥が苦しくなるのは、何故でしょうか。

 

あなたの想いが側にあるという、当たり前だった日々。

 

あの頃から、ずっと、

いつも仕事へ行く時には、持ち歩いていた水筒を、手に取りながら、

あの日、あなたがこの水筒を選んでくれた日のことを、

鮮明に思い出していました。

 

そっか。

こんなところにも、あなたの想いが遺されていたんだね。

 

もう少しの間だけ、

この水筒を使おうか

 

古くなった水筒ですが、

もう少しだけ、このままで、

 

当たり前に、あなたの想いが此処にある

 

そんな日々を過ごそうと思いました。

 

 

OFUSEで応援を送る