拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

キャンディ

あなたへ

 

悲しい気持ちのする香りのお線香から、

甘い香りのお線香に変えてから、どのくらいが経ったでしょうか。

 

今、あなたの場所に準備してあるのは、

4種類のキャンディの香りのお線香。

 

このキャンディの香りのお線香をあげながら、思い出すのは、

あなたが病院へと運ばれ、危険な状態だと説明されながらも、

奇跡的に回復し、

快方へと向かい始めた、あの頃のことです。

 

まだ食事は摂れませんが、

飲み物と、飴の許可が出ましたよ

刺激の少ないものを選んできてあげてくださいね

 

そんな看護師さんの言葉に、早速、買い物へ出掛けようとした私に、

あなたは言ったのでした。

 

色々な味が入っている飴がいいな

 

あなたからのリクエストに頷きながら、

嬉々として、買い物に出掛けた私が選んだのは、

スポーツドリンクと、

数種類の味が楽しめるフルーツ味のキャンディ。

 

まずは、スポーツドリンクを一口飲んだあなた。

 

久し振りの味は、どうですか?

 

看護師さんの、こんな言葉に、

あの時のあなたは、ただただ、嬉しそうに笑ったのでした。

 

そうして、キャンディをひとつ、口に入れると、

もっと嬉しそうな顔をしたあなた。

 

あの時のあなたったら、

続けてもうひとつ、キャンディを口に入れたかと思えば、

何故だか、こっそりと、

更に幾つかのキャンディを、手に握り締めましたね。

 

ねぇ、そんなに欲張らなくても、誰も取らないよ

これ、全部あなたのだよ

 

私の言葉に、

しっかりと手に握り締めたキャンディを、袋へと戻しながら、

悪戯が見つかった子供みたいな顔をしていたあなたの顔が、

なんだか、とても可笑しくて可愛かった。

 

あなたがすること、ひとつひとつが、

可笑しくて、愛おしかったあの時間は、

これから、快方へと向かい、

またあなたと家族3人で暮らすことが出来るのだと、

信じて疑わなかった頃の、とても幸せな記憶です。

 

昨日は、メロンの香りだったから、今日はイチゴの香りね

 

毎日、同じにならないように、お線香の香りを選びながら、

あの日のあなたの声を思い出します。

 

色々な味が入っている飴がいいな って。

 

あの日は、あなたが入院してから、初めて、一緒に笑いましたね。

 

幸せに満ちたあの時間は、

今、思えば、ほんの僅かな時間でした。

 

でも、あの頃の私たちは、

幸せで、いっぱいでしたね。

 

 

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占いの言葉

あなたへ

 

生涯かけて、愛する人と出会うでしょう

 

こんな言葉を目にしたのは、

あなたと結婚する前の年の、年末のことでした。

 

ほら、よくあるでしょ?

インターネットで公開されている無料占い。

来年のあなたの運勢 みたいな。

 

なんとなく開いた携帯サイトのこの言葉に、

あの頃の私は、思わず、首を傾げました。

だって、私はもう、あなたと出会っていたもの。

 

あれからも、私たちは、

順調なままで、一緒に月日を過ごしました。

そうして、あの占いの言葉など、すっかりと忘れ去られた頃に、

私のお腹の中には、あの子が宿りました。

 

元気に生まれてきてくれた小さなあの子を抱きながら、

ふと、思い出した占いの言葉に、

生涯かけて、愛する人とは、この子のことだったのだと、

深く納得したのでした。

超音波画像で確認出来た、12mmだったあの子をみつけた日が、

生涯をかけて、愛する人との出会いの日だったのです。

 

あの時、私は初めて、

本当に当たる占いがあるのだということを知りました。

 

 

あれから、子育てに追われ、日々忙しく過ぎゆく中、

あの出来事さえ、すっかりと忘れてしまっていた私ですが、

先日、ふと、あの占いの言葉を思い出し、考えていました。

 

あなたと私は、やはり、出会うべくして、出会ったのだと。

だって、もしも、私たちが運命ではなかったのなら、

きっとね、

あの年に離れてしまっていたのだと思うのです。

でも、そうではなく、私たちは家族になりました。

そして、

あなたと出会えたから、あの子が生まれて来てくれたのです。

 

ほらね。

やっぱり私たちは、やっぱり運命だったのよ。

 

なんて言ったら、あなたはまた、笑うのでしょうか。

あの頃みたいに。

 

そんなの、こじつけだよって、

そんなあなたの声が聞こえてきそうですが、

こじつけでもいいの。

私が納得しているから。

 

あの頃、小さなあの子を抱きながら、

もう一度だけ、あの占いの言葉が読みたくて、サイトを探してみたけれど、

もう、みつけることは出来ませんでした。

 

たった一度だけ見たことのある、あの言葉は、

月日が経った今では、

あなたと私は、やはり、運命で結ばれているのだと、

納得させてくれる言葉となりました。

 

 

 

ヘルメットの中という空間

あなたへ

 

俺はね

バイクに乗っている時には歌うんだよ

たまに叫ぶ時もあるけどね

 

例えば、寒い冬には、寒い!と叫びながら、

そうでない時には、気持ちよく大熱唱。

 

ヘルメットの中という小さな空間を楽しんでいるのだと話して聞かせてくれたのは、

あの子がバイクに乗るようになり、

どれくらいが経った頃だったでしょうか。

 

外には聞こえないから大丈夫

 

あの時のあの子は、フルフェイスのヘルメットだから、

遠慮なく、大きな声で歌うのだと、話してくれました。

 

ヘルメットの中とは、

開放的な気持ちになれる空間なのでしょうか。

 

朝の通勤途中のことでした。

信号待ちをしながら、ふと、バックミラーを見ると、

私の車のすぐ後ろには、一台のバイクが、並んでいました。

 

あの子と同じくらいの年齢かな

 

フルフェイスのヘルメットに、顔を見ることは出来ませんでしたが、

なんとなく、そんなことを考えながら、視線を前へと戻すと、

何やら声が聞こえて来ました。

 

どこかに歩行者がいるのだろうかと、周りを見渡しても、誰もいません。

でも、私の車のすぐ近くから、声が聞こえるのです。

 

もう一度、バックミラーを見てみると、

どうやら後ろに並んでいるバイクの彼が、

大きな声で、歌を歌っているようでした。

 

まじまじと見つめてみれば、地面に付けた足は、

リズムまで取っているではありませんか。

 

それ、丸聞こえですよ

 

伝えられない言葉を飲み込んで、

私は、バックミラー越しに、

暫く、ノリノリの彼から、目を離すことが出来ませんでした。

 

あの子と同じように、

ヘルメットの中という空間を楽しんでいる彼を見つけた朝は、

なんだかとても可笑しくて、

こちらまでもが、楽しい気持ちになりました。

 

あの子に、朝の出来事を話してみれば、

走っている時でないと、さすがにヘルメットの外にも聞こえるよ と一言。

 

あの彼は、それに気付いていないのか、

それとも、気にしていないのか。

その答えは分かりませんが、

偶然見かけた彼は、憂鬱な気持ちでいた私を、

笑顔に変えてくれました。

 

楽しそうな誰かを見つけた日は、

なんだかこちらまでもが、楽しい気持ちになります。

 

ため息を吐くはずだった私を、

ミラー越しに笑わせてくれた見知らぬ彼のお陰で、

前向きな気持ちで、無事に1日を終えることが出来ました。

 

 

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