拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

コトバ  -不思議な感覚-

それは彼がいなくなり 間も無くの事だった


悲しさも苦しさも必死で隠し


平気な振りをしながら 目の前にある仕事を黙々とこなしていたある日


心ない人の言葉に傷つき


今にも溢れそうな涙を必死に堪え


まるで生傷をナイフで抉られたかのような痛みを抱えながら


やっと家路に着いた日だった

 


彼の遺影を見たら


我慢のタガが外れたみたいに 一気に涙が溢れ出した


彼にお線香をあげ 長い間 手を合わせながら


泣いていたんだ


悲しくて どうしようもなく苦しくて


時々 嗚咽を漏らしながら 泣いていた時だった

 


ふとその言葉は頭に浮かんだ


「大丈夫 大丈夫」


それは


頭の中に直接言葉が響き渡るような


頭の中で誰かが突然言葉を発したような


何とも表現し難い


今までに経験したことのない 不思議な感覚だった


その言葉は


本当に辛いことがあった時 彼が私に言ってくれた言葉だった


時に抱きしめられながら


時に私の髪を撫でながら


懸命に励ましてくれた時に 彼が言ってくれた言葉だった


大丈夫 大丈夫


それまで悲しみのどん底にあったはずの私の心が スッと軽くなるような


全身にまで行き渡った倦怠感が 消えていくような


不思議な感覚だった


彼はあの時 泣いている私の側に いてくれたのだろうか


あの時程に辛いことがなかった代わりに


あの時以来その不思議な感覚は 経験していない


あの時の事は どう話していいのか分からずに


結局は誰にも話さないまま 胸の奥にしまい込んだ


あの日 彼はそこにいて


私を慰め 励ましてくれたのかも知れない


あの日の辛かった出来事を思い出しても


あの時みたいな苦しさが蘇る事はなく


彼の言葉が


彼の優しさが


蘇る記憶へと変わった