拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

小さな一歩

あなたへ

 

昨日ね、ワイパーをかけても、前が見えなかったんだよ

 

ワイパーのゴムを交換した方がいいね

近くのカー用品店に行けば、変えてくれるから

行けるよね?

 

これは、雨が降った翌日の、

病室でのあなたとの会話でしたね。

 

あなたが退院するまで待ってるって、

あの時の私の言葉に、あなたは言ったの。

 

俺は、ちょっと無理かな

暫く、掛かると思うから って。

 

あの時の私は、分かったって言ったけれど、本当はね、

あれから、あなたを見送るまで、

カー用品店には、行きませんでした。

 

こんなことを言ったら、

危ないよって、あなたに叱られてしまうけれど、

あの時の私は、

あなたが、いいよって言ってくれなかっことが、とても怖かった。

だって、あなたは、守れない約束は、しない人だったから。

 

あの日のあなたの弱気な返事に、

凄く、不安になりました。

 

車のことは、全部あなたに任せきりで、

ひとりで、カー用品店にさえ、行ったことがなかった私。

 

もしも、あなたがいないままに、

私ひとりで、カー用品店へ行ってしまったら、

あなたは、戻って来てくれないのかなって。

 

だからね、本当は、ずっと待っていたよ。

 

きっと、私が、新たな一歩を踏み出さなければ、

出来ないことがたくさんある私を置いてなんて、

あなたは何処にも行かないのだと、

そう信じて、

あなたが帰って来てくれる日を、待っていたよ。


あなたを送り出してから、間もなくに、

あの子と一緒に、

近所のカー用品店へ、ワイパーのゴムを交換しに行きました。

 

たかが、ワイパーのゴム。


ですが、
あれは、私にとって、

2年前の夏の、

小さな、小さな一歩でした。