拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

携帯電話

あなたへ


私たちが、揃って、携帯電話をiPhoneに変えた日の事を、
覚えているでしょうか。


3.11大震災の恐怖を知り、
あの子に初めて、携帯電話を持たせたのは、小学生の頃でしたね。


あの子が中学校に上がると、子供用の携帯電話を嫌がり、
iPhoneを欲しがるようになりました。


3人で、iPhoneに替えようか


そう提案した私の言葉に、一番乗り気だったのは、実はあなたでしたね。


初めて触ったiPhoneに、ワクワクしながらも、
説明書が付いていない事に、困惑しましたね。
どうしたらいいのか分からなかった私たちは、
パソコンで調べながら、設定したんでしたっけ。


今、思い出せば、なんだか、笑ってしまいます。


笑ってしまうけれど、3人で、騒ぎながら、設定した事、
本当に、楽しかった。


あれから、2ヶ月程で、
あなたは、そちらに逝ってしまいましたが、
買ったばかりのあなたの携帯電話は、
とても、解約する気にはなれなくて、
あなたを見送ってからも、
あなたの分の携帯電話も充電しました。


あなたの携帯電話に届くダイレクトメールの音に、
あなたが側にいた証を見つけました。


あなたが側にいた証は、
他にもたくさんあったけれど、携帯電話は、特別でした。


家族3人で、ゲームの点数を競い合いましたね。
こんな機能知ってた?
なんて、会社の人から教わったであろう機能を、

ちょっぴり自慢気に、教えてくれました。
あなたが入院し、一般病棟へ移った頃には、家族3人で連絡を取り合いましたね。
特に用事はなくても、あなたからの連絡に、いつでも側にいる気がしました。


携帯電話を見る度に、
あの頃の楽しかった事を思い出しました。


あなたを送り出し、2年と半年余り。


あの子の受験が終わったら、
あなたの携帯電話の解約手続きに行こうと、ようやく、決意した矢先の事。
それは、あまりにも、タイミングの良い出来事でした。


あの子の本命高校受験の、ちょうど1週間前、
あの子の携帯電話が突然に、壊れました。


勉強の合間の息抜きには、
必ず、携帯電話を触っていたあの子だけれど、
ショックな顔を見せたのも束の間。


お父さんに、今は勉強しなさいって叱られた気分
そう言って、
いつまでも壊れた携帯電話にこだわる事はありませんでした。


それどころか、
勉強に集中出来ていいね
なんて、とても前向きなあの子。


そんな前向きなあの子に、
受験が終わったら、新しいiPhoneを買いに行こうと約束しました。


今回、あの子の携帯電話が壊れた事で、
あの子と私の携帯電話を買い換える事にしました。


ズルズルと先延ばしにしてきた、
出来れば、やりたくなかった、あなたの携帯電話を解約する日は、
やりたくない事と、楽しみな事が半分ずつの日に変わり、
前向きな気持ちになる事ができました。


勉強を頑張ったご褒美に、あの子に新しい携帯電話を買ってあげよう


もしも、あなたが、側にいてくれたのなら、
そんなふうに言いながら、きっと、
みんなで買い換えようか
なんて、提案したのでしょうね。


あなたを送り出してから、
時々起こるアクシデントは、
いつでも、タイミングが良くて、
あなたがそうしたのではないかと、思ってしまいます。


先日、あの子の受験が無事に終わり、新しいiPhoneを買いに行きました。


あの頃みたいに、戸惑う事もなく、
スムーズに、設定する事ができました。


あなたの携帯電話の、解約の手続きは、
やっぱりちょっと、寂しかった。


半分楽しくて、半分悲しい、ちょっと不思議な日。


私はまた一歩、前に進めたでしょうか。