拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

黒のダウンジャケット

あなたへ


近頃のこちらは、随分と寒くなって来ました。


先日、夕方から、外出予定だったあの子が、
出掛ける前に、着て行く服を迷いながら、
これ、どうかな?って、私に着て見せたのは、
あなたのお気に入りだった、黒のダウンジャケットでした。


これ、すごく温かくて、気に入っているんだ
高かったけれど、長持ちしているよ


黒のダウンジャケットに袖を通しながら、
あなたが、そう話してくれたのは、
私達が結婚し、間も無くの頃だったでしょうか。


あなたのお気に入りの、
黒のダウンジャケットを、あの子に貸してくれたのは、
あの子がまだ、幼稚園生の頃でしたね。


バスに乗って登園していたあの子。
冬になると、
バスを待つ時間が寒いからと、


パパのお洋服を貸してあげるよ


そう言って、
あなたの黒のダウンジャケットを、
あの子に貸してくれたんでしたっけ。


リュックを背負ったまま、膝まですっぽりと隠れるそれは、
とても温かいと、小さかったあの子にも評判でしたね。


あの頃のあの子は、
あなたの黒のダウンジャケットを着せると、
服が歩いているみたいで、とても可愛らしかった。


バスの到着を待ちながら、
あの子のそんな姿を収めた写真を、
あなたは、目尻を下げて、眺めていましたね。


あれから、10年振りに、袖を通した黒のダウンジャケットは、
あの子に、ぴったりのサイズになっていました。


大きくなったね


小さかったあの子の姿と重ね合わせながら、
そんな言葉が出た私に、あの子は言いました。


顔を隠したら、お父さんに見える? って。


あなたを見送った頃は、家族の中で、いちばん身長が小さかったあの子。


黒のダウンジャケットは、
もっと大きくなったら、僕が着たいと、
大切に保管していたものでした。


お父さんに、そっくりになったよ


あの子の言葉に、そう返すと、
嬉しそうに、出掛けて行きました。


あなたの身長を、少しだけ越したあの子。


時々、あなたの温もりを探しながら、成長し、
あなたの、黒のダウンジャケットが似合うようになりましたよ。

 

 

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