拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

あなたの側で過ごした至福の時間

あなたへ


多趣味な私の、好きなことのひとつ。
手芸は、私にとって、長い歴史のあるものでした。


あなたが側にいてくれた頃、
あの子が眠ると、ものづくりに没頭した、いくつもの夜。


テレビを楽しむあなたの側で、
好きなものを作りながら過ごした短い時間は、
私にとって、至福の時間のひとつでした。


あなたは、覚えていますか。


家にあるもので、初めて作ったコースターを、
田舎の座布団だなんて、失礼な名前を付けて、笑ったあなた。


確かに、否定できない柄とデザイン。


あれから、
あなたとあの子から、
田舎の座布団と呼ばれ続けたあのコースターは、
夏になると大活躍してくれましたね。


いつか、あなたに頼まれて、
仕事道具を入れる袋を作った時には、
丁度いい大きさだと、喜んで、使い続けてくれました。


いつでも、あなたの側で、
色々なものを作ったんでした。


また、あんなふうに、あなたの側で、
手芸を楽しむ時間が戻って来るんだと思っていました。

 


これ、録画しておいてね


病院のベッドの上のあなたから、
近日にテレビで放送される映画の録画を頼まれた私。


うん、分かった
そう返事を返したけれど、
実はもう、チェック済みだったあなた好みの映画。


あの頃の私は、
あなたが退院したら、自宅でゆっくり休んでもらおうと、
あなたが好みそうな映画もドラマも全て、
録画の予約をしておいたんでした。


いつもの生活に戻る日を待ち望み、
またきっと・・・そんなふうに思いながら。

 


今夜、少しだけ、時間が空いた私は、急に思い立ち、
押入れの奥から、手芸セットを準備すると、

あの時、あなたが楽しみにしていた映画の録画を再生することにしました。


一度も、再生されることなく、
NEWのマークがついたままの、あの日、あなたに頼まれた映画。


私とは、映画やドラマの趣味が合わなくて、
えぇ?何でそれなの?
なんて、不満を口にする私に、
いいじゃん。一緒に観た方がいいよ
あなたは、いつでも、そんなふうに、私の言葉をかわしては、
その作品の見どころを話して聞かせてくれましたね。


そうして、あなた好みの録画をBGMに、
私は、あなたの側で、色々なものを作ったんでした。


これ、かわいいでしょ?


テレビに集中するあなたの邪魔をして、
あなたの目の前に、作ったものを差し出した私に、
うん、かわいいねって、
上の空で返事をする、あなたの声に満足しながら。


あなたと出会う前からの趣味だった手芸。


いつの間にか、
あなたの側で、ものを作ることが当たり前になっていた私は、
手芸が好きな自分を、
あの日に置いてきてしまっていたようでした。


何故だか今夜、急に思い立ち、
あなた好みの映画をBGMに、手芸をしながら、
あの頃のあなたを思い出していました。


これ、かわいいでしょ?


なんとなく、あなたが側にいる気がして、呟いた私の声に、
あなたは、答えてくれていたのでしょうか。
あの頃みたいに、上の空で。