拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

忍者の巻物

あなたへ


大きくなったら、忍者になりたい


あの子が初めて見つけた将来の夢を、
あなたは覚えていますか。


あれは、あの子がまだ、幼稚園へ上がる前のことでした。


たまたまテレビで見た忍者に憧れ、
大きくなったら、僕も忍者になりたい
そう夢見たあの子。


あの頃のあの子からは、
毎日のように、折り紙で手裏剣を作ってほしいと、頼まれましたっけ。
何処へ行く時も、
折り紙で作った手裏剣をポケットに入れて、お出掛けしたんでした。


やがて、幼稚園へ入園した、ある日のこと。


幼稚園からのお便りをクルクルに丸めて、大切そうに手に持ち、
幼稚園バスから降りてきたあの子。


これはね、幼稚園からのお便りだけど、
忍者の巻物にもなるんだよ
これがあれば、壁抜けの術が出来るんだよ


興奮気味に、そんな話をしてくれました。


そうして、自宅に帰ると早々に、
見ててね
そう言って、お便りで作った巻物を口に加えると、
止めようかどうしようかと迷う私をよそに、
勢いよく、襖に突進したあの子。


あの子の体は、襖をすり抜けることなく、
当然のごとく、思いっきり、後ろに転がったんでした。


え?何で壁抜けの術が使えないの?


痛そうな顔をしながらも、
何故、壁抜けの術が使えなかったのかの方が、重要だったあの子は、
泣くこともせず、不思議そうに巻物と襖を交互に見つめたんでした。


仕事から帰ったあなたへ、その日の出来事を話すと、
あなたは笑って、あの子に言いましたね。
修行が足りないなって。


大きくなったら、忍者になりたい
その気持ちは、揺らぐことなく、
あの子は、その夢を追い続けましたね。


あなたがお休みの日には、あなたと一緒に、忍者になるための特訓をしました。


分身の術が使えるようになるために、早く走る特訓
塀や屋根まで飛べるように、高くジャンプをする特訓


あの頃のあの子の得意技は、忍び足の術。
いつの間にか後ろに立つあの子に、
何度、驚かされたことでしょうか。


幼稚園から帰ったあの子は、
あなたがいなくても、
忍者になるための自主練習を欠かさなかったんでした。

 


先日、あの子から手渡された、
皺くちゃになった学校からのお便りを眺めながら、
12年前、幼稚園からのお便りを、
大切そうに持って帰ってきた、幼いあの子のことを思い出していました。


まだ小さく可愛らしかった頃の、あの子の記憶。
あなたは、ちゃんとそちら側へ持って行ってくれたでしょうか。