拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

チグハグの靴

あなたへ

 

これからは、何でもひとりで出来なければならない

 

あなたを見送ってからの私は、

そう自分に言い聞かせて、

あなたに、たくさんのいい報告が出来るようにと、

出来るだけ前を向いて、これまでを過ごして来たつもりでした。

 

こんなことも出来るようになったよ

 

ひとつひとつ乗り越えては、

あなたにいい報告が出来ることが、なんだかとても、嬉しかった。

 

 

先日、あなたのお母さんが、のし餅を送ってくださいました。

 

お正月は、楽しかったね

これ、良かったら食べてね

 

そんなメッセージと共に届いた、のし餅。

 

あの子も私も、餅が好きだから、

とても、嬉しい気持ちで、

あなたのお母さんへ連絡したんでした。

 

餅を買う時は、切り分けてある餅を買う我が家。

餅を切り分ける機会があるのは、

あなたの実家から、のし餅を頂いた時でした。

 

こんなふうに、のし餅を頂くと、

 

危ないよ

俺が切ってあげる

 

そう言って、のし餅を小さく切り分けてくれたあなた。

 

その切り方は、いつでも丁寧に、

均等に揃えて、切ってくれたんでした。

そんなあなたの側で、

綺麗な長方形が積み重なっていくのを見るのが、とても好きでした。

 

あなたの切り方を真似て、

自分で、のし餅を切り分けるのは、これで、何度目だったでしょうか。

 

あなたを真似しているつもりでも、

私が切り分けるのし餅は、いつも歪な形。

それでも、

あなたがしてくれていたことが出来るようになった私は、満足し、

出来たよって、

あなたに報告しながら、

自分で切り分けた餅を供えることが出来て、なんだか、嬉しかった。

 

それなのに、

 

出来るようになったことは、たくさんあるけれど、

そうじゃないの

 

先日の私は、

包丁を置いて、小さく独り言。

 

苛立ちと、怒りと悲しみが入り混じったような、

なんとも言えない感情が込み上げてきた私は、

どうしようもなく胸が苦しくなって、

曲がって歪な形の、切掛けの餅をしばらくの間、眺めたんでした。

 

私は、出来ることが増えれば増えるほど、

あなたが遠く離れていても、

いつか寂しくなくなるんだと思っていたのかも知れません。

 

上手くは言えないけれど、

 

なんでも出来なければならない

 

その気持ちは、いつの間にか形を変えて、

私自身が成長することが出来れば、

遠く離れてしまったあなたをただ、

「静かに想う」ということだけが出来るようになるのだろうと、

そんなふうに考えるようになっていたのかも知れません。

 

それはきっと、私が前に進むための、

そして、自分で自分を守るために、

無意識に選んだ手段だったのでしょう。

 

いつどこで履き替えたのかも分からないまま、

私はいつからか、チグハグの靴を履いて、歩いて来てしまったようです。

 

何かが出来るようになっても、

寂しさは消えない

 

溢れ出す、あなたに逢いたい気持ちと共に、気付いてしまった私は、

歪な形の餅を眺めながら、涙を浮かべて、ひとりで作り笑い。

 

私は、これからもきっと、色々なことに挑戦しながら、

あなたにいい報告が出来る度に、嬉しい気持ちになるのでしょう。

 

あなたなら、どんなふうに喜んでくれるだろうか。

どんな笑顔で、どんな言葉を掛けてくれるだろうかと、

あの頃のあなたを、ひとつひとつ思い出しながら。

 

それでも、

どんなに多くのことが出来るようになっても、

この苦しさも、寂しさも、

きっと消えることはないのでしょう。

 

時に、立ち止まり、振り返っては、

また涙を流す日が来るのだと思います。

 

そして、いつかまた、

前に進むために、自分で自分を守るために、

いつの間にか、

チグハグの靴を履いて歩く時が来るのかも知れません。

 

不意にチグハグの靴を履いて歩いていた自分に気付き、

無意識に履き違えてしまった靴を見つめながら、

その時もまた、こうして肩を落とすのでしょう。

 

でも、どんなに苦しくても、

自分と向き合うことをやめたりしないよ。

 

その都度、見つけた自分をちゃんと認めて、

立ち止まって、

両方揃った靴に履き替えて、ちゃんとそこから出発するよ。

 

だって、いつかきっと、

今とは違う何処かに辿り着くはずだから。

 

その長い道のりの中、

きっとね、

素敵な景色が、たくさんあるはずだから。