拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

特別な冬の日

あなたへ

 

スノーボードが趣味で、とても上手なあなたと、

2度目のスノーボードにして、上手に滑れたあの子。

あなたと出会う前、数回の経験がありながら、

決して滑れるなどと言えたものではない私。

 

家族3人で、スノーボードに出掛けたのは、

あなたと過ごした最後の冬のことでした。

 

緩い傾斜がついた坂の上。

あなたに言われた通りに、ボードを付けて、

雪の上に立ち上がると、

 

立つことが出来れば、滑れるから、大丈夫だよ

 

あなたは、そんなことを言ったんでした。

そうして、

 

ここまで滑ってきて

 

あなたに言われた通り、なんとか滑り降りた私に、

次はこうしてみてって、簡単な動きを見せてくれたあなた。

あなたを真似て滑るうちに、気が付けば、

これまでの中で、一番上手に滑れるようになっていたんでした。

 

私にとって、10数年振りだったスノーボード。

 

こんなに上手に滑れたの、初めてだよ

楽しい!

 

そんなことを言った私に、

あなたは、とても嬉しそうな顔を見せてくれたんでした。

あなたは、私にとって、世界一のコーチでした。

 

あの日、

リフトに乗りながら3人で見た景色も、

苦手な寒ささえ、心地よく感じたことも、

コースの途中、端に寄って休みながら、チョコレートを食べたことも、

お土産屋さんで、可愛いクマのぬいぐるみを見つけた私に、

買ってあげるよって言ってくれたことも、全部、覚えてる。

本当に、楽しかった。

 

これからは、毎年来ようね

あの日、あなたのそんな言葉に頷きながら、雪山を後にしたんでした。

 

先日、あの子がスノーボードから帰って来てから、

置きっ放しになっている板を眺めながら、

家族3人でスノーボードへ行ったの日のことを思い出していました。

 

あなたを見送り、

あなたとの思い出の場所へ出掛けたり、

本当は、一緒に行ってみたかった場所へ、出掛けるようになった私ですが、

いつの頃からか、漠然と、

スノーボードだけは、

あの日、3人で滑った日を最後にしようと決めていました。

 

あなたなら、きっと、

なんで?行ってきたら? 

なんて言うのでしょう。

 

あの日以上に、上手に滑りたくないからなのか、

あなたが側にいてくれないと、上手く滑れる自信がないからなのか、

考えてみたけれど、

私にも、ハッキリとした理由は、分かりませんでした。

 

もしも、あの年、

あなたと一緒にスノーボードへ行くことがなければ、

本当の、その楽しさを知ることもなければ、

私が、あんなに上手に滑れるようになることも知らずに、

今の私は、少しだけ、何かが違っていたのかも知れません。

 

色鮮やかに残った記憶の中、

気が付けば、自分でも驚くほどに上達することが出来た私は、

あなたのお陰で、

小さな自信を持つことができたんでした。

 

特別に上手に滑ることが出来たあの日は、

特別なまま、ずっと、胸の中に残しておきたい。

 

漠然とした気持ちに、明確な理由をつけるとしたのなら、

きっと、これが正解のような気がします。

 

こちらでは、春も間近となってきました。

またきっと、スノーボードの季節が巡るたびに、あの頃をそっと思い出し、

私はまた、あの頃のあなたを想うのでしょう。

 

立つことが出来れば滑れるよ

あなたの言葉に笑った、3人で過ごした最後の冬の日を。