拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

3月32日 ~何が夢で何が現実か~

その時、

 

ガチャ

 

不意に開いたドアの音に驚き、飛び退くように彼から離れ、ドアの方を見ると、そこにあの子が立っていた。

「おはよう」

眠そうに目をこすりながら、ボサボサ頭で部屋に入って来たあの子の姿に、私は思わず叫んだ。

「デカッ!!」

 

━━━そう叫んだのには、理由がある。

彼とあの子と私。家族3人で過ごす夢に出てくるあの子は、あの頃の━━━最後に彼の瞳に映った、中学1年のあの子なのだ。

故に、夢の中の世界であろうここに、今の、もうすぐ高校3年になろうとしているあの子が出てくるわけがない、という理由からの驚きだった。

 

本気で驚く私を他所に、あの子は、寝ぼけた声のまま、のんびりと言った。

「え?そんなに急に伸びないよ。

でも、伸びたのかなぁ・・・お父さん、隣に並んでみてよ。」

私が思わず叫んだ言葉を、身長のことだと勘違いしたあの子は、彼に、背比べをせがんだ。

 

あの子に身長を越された彼は、

「えぇー嫌だよ。」

なんて言いながらも、あの子の横に並んだ。

「ねぇ俺、また伸びた?」

ドアを背中に、あの子と彼が並んでこちらに体を向けた。

 

彼は、横目でチラチラとあの子を見ながら、背伸びをして、あの子の身長に合わせて、澄ました顔をしている。

そんな彼が可笑しくて吹き出した私の様子に、あの子はやっと、彼の背伸びに気付くと、

「何してんだよ。」

そう言いながら、笑い出した。

朝から、家族3人で、大笑いだ。そうして、

「大きくなったな。お前、これから俺と並んで歩く時は、膝曲げて歩けよ。」

なんて言いながら、彼はあの子の頭を撫でた。

 

あの子が、彼の身長を越したのは、中学3年生の頃だった。

お父さんと並んでみたい。あの頃、あの子はポツリとそんなことを言ったんだった。

お父さんと背比べ━━━できて良かったね。

今、目の前にいるあの子の笑顔を眺めながら、ぼんやりと、そんなことを考えた。

 

彼とあの子。2人並んでみると、本当によく似ている。

彼に比べ、あの子は、まだまだ華奢な体つきだけれど、雰囲気も顔付きも━━━声がよく通るところも、彼譲りだ。

あの子はきっと、これからもっと、彼に似てくるのだろう。

 

いつの間にか、この家での定位置に座った彼とあの子は、お喋りを始めた。

先輩の車がかっこいい話や、学校の先生のモノマネ。

あの子が、よく私に話して聞かせてくれる話を、彼と普通に話している。

 

「俺、もうすぐ3年生じゃん?

誕生日が早い子は、もうすぐ18才になるんだよ。

夏休みには車の免許を取り始める友達もいるよ。俺も早く免許取りたいよ。」

今、目の前にいるあの子が、確かにもうすぐ高校三年生になるあの子だと確認したところで、私は、キッチンへと戻った。

 

私は混乱していた。

これは、本当に夢なのか━━━。

 

いつもの夢とは何かが違う気がする。

巧妙過ぎると言えばいいのだろうか━━━。

それとも、こっちが現実?

彼が亡くなり、4年と8ヶ月を経験するという、とてもリアルな夢を見ていたのか。

あまりにリアル過ぎる夢に、私は、夢と現実の区別がつかなくなってしまったのだろうか。

それなら、この4年と8カ月間の彼との記憶がないのは、何故だろうか。

短い時間で私の頭は、沸騰寸前に達した。

 

━━━でも、今、すっごく楽しい!彼が此処にいて、あの子がいて。

家族3人で一緒に笑うこと。『幸せ』が今、目の前にある━━━それでいいじゃん。

 

私は、時々、物事を難しく考えてしまう。

亡くなった━━━と思い込んでいた彼のシンプルな考え方を見習いたいと思っていたんだ。

今こそが、その時ではないのか。

 

ただ、目の前にある大切なものを、存分に大切にすればいい。

私の中で声が聞こえる気がした。

━━━そうだよね。

 

それでも━━━どうしても、これが夢ではないという確信が欲しい。

これが現実であって欲しい。

あれが夢だったと証明できる方法は、何かないだろうか。