拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

3月32日 ~3月32日~

「あぁ、腹減った。」

あの子の声に、朝食の準備を始めることにした。

休日の朝は、パンにすることが多い我が家。

手早く朝食の準備を整えると、食卓に着き、

パンをちぎりながら、何気なくテレビの声に耳を傾けた。

 

「さて、3月32日の今日━━━」

アナウンサーのそんな言葉に耳を疑った。

 

「え?今、3月32日って言わなかった?」

驚く私に、彼もあの子も、今更何言ってるのとでも言いたげな視線をこちらに向けた。

「そうだけど・・・」

彼はそう言って、2つ目のパンに目を伸ばしながら、更に続けた。

「なんか今日、お前、変じゃない?」

 

彼の話によれば、3月32日は、この2019年に一度だけ設けられた日にちだと言う。

昨年、大々的に発表され、世界中が混乱したらしい。

何故、3月に1日を増やすことになったのか、明確な理由は発表されず、テレビに色々な専門家が出てきては、議論が展開されたそう。

ネット上でも、それはそれは大騒ぎとなり、地球に大きな異変が起きているらしいなどと恐怖を煽るような噂が出回ったらしい。

ちなみに、曜日が狂わないようにという理由から、日曜日が2回続くことになった━━━ということだった。

 

我が家でも、当然、それについて、話題に挙がったそうだが、私は、日曜日が二回続くことに大喜びし、難しいことは、どうでもいいじゃん。と楽観的に捉え、一生に一度しかない3月32日は、家族で過ごす日にしようと提案したらしかった。

 

その時、せっかくだから、どこか遠出でもしようかと彼は言ってくれたそうだが、私が、家族3人でいられれば、混雑するような場所でなくていいと答えたため、じゃあ、当日、行きたい場所を適当に決めて、過ごそうかということになったらしい。

 

「日曜日が2回続くって喜んでたじゃん。今日は、家族で過ごす日にするんだろ?

今日は、ずっと一緒にいよう。

で、何する?━━━あっ、そうだ。俺、ホームセンター行きたい。」

「あっ!俺も行きたい。」

これはあの子だ。

 

「じゃぁ、まずはホームセンターで!」

彼とあの子はハイタッチをして、微笑み合っている。

これは、いつの頃からか、意見が一致した時の、我が家の男同士での挨拶のようなもの。

彼とあの子は、昨日の続きのように話し、男同士の挨拶も、あの頃と変わらない。

 

3月32日(日曜日)━━━何だそれ?

私だけが、何かおかしい。

これが夢でないのなら、例えば━━━パラレルワールド━━━

一瞬、そんな考えがよぎりながらも、私は、すぐに、その考えをかき消した。

 

胸の奥、やはり違和感は消えないけれど、目の前にあるものをを素直に受け入れればいいじゃないか━━━。そんな気持ちで彼らの談笑に耳を傾けた。

 

これは、もう、どんなに泣いても戻ることは出来ないと思っていた、私の幸せだ。

もう、二度と、この幸せを手放したくない。

余計なことを考えないように、私は目の前の食事を口に運ぶことだけに集中した。