拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

3月32日 ~ホームセンター~

家から、少し離れた場所にあるその店は、

近所のホームセンターよりも、安く買えるものが多い。

その価格に、思わず興奮しながら、店内を見て回る。

気が付くと、さっきまで、一緒にいたはずの彼とあの子がいない━━━。

 

ホームセンターへ出掛けると大概はぐれる。

こんな時は決まって、あの場所にいるんだ。

工具売り場━━━。

そこは、彼が大好きな場所だ。

 

買い物カゴを持ったまま、工具売り場を覗くと、案の定、彼とあの子がいた。

男同士、工具を手に取りながら、あれやこれやと楽しそうに話している。

成長したあの子は、彼が辿った道を辿るように、色々な工具の使い方を覚えるようになっていた。

私には、何に使うのか全く分からない工具を器用に使いこなし、いつの間にか、何でも自分で直せるようになっていたんだ。

 

少し離れた場所から彼らを眺めながら、なんだか、また、ひとりでに、可笑しさが込み上げてくる。

亡くなった━━━と思い込んでいた彼が、今、目の前にいて、あの日から、私がひとりで育てたはずのあの子が、当たり前に、彼の隣に並んで、工具を見ている。

何事もなかったかのように家族3人の時間が流れ、私のすぐ目の前には、あんなに戻りたいと願っていた過去が、現在として流れているんだ。

可笑しくて、可笑しくて、涙が溢れた。

 

彼が━━━いや、今は彼らが、工具売り場を見る時間は非常に長い。

涙が乾くまでの間、俯いたまま、店内を一周し、工具売り場へ戻ったところで、私に気が付いた2人は、笑顔で近づいて来た。「買い物終わった?」って。

そう━━━あの頃と同じように。

 

彼は、いつの間に選んだのか、何故か小さなプランターを手に持っていた。

「これ、どう思う?可愛い?」

彼は、私にプランターを見せた。

 

少し小さめで、色は、薄いピンク。陶器で出来たプランターとお揃いの受け皿も付いていた。

彼はいつも、家で使うものは、私好みのデザインのものを選んでくれる。

 

「うん、可愛い。でも、なんでプランター?」

私の返事に満足そうな顔をした彼は、

まだ内緒だと言いながら、一緒にレジへと並んだ。