拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

移りゆく景色が思い出させてくれたこと

あなたへ

 

あなたと一緒に何度も行った、大型のスーパーの向かい側。

広い畑が広がっていて、敷地の奥にはビニールハウスがあったあの場所に、

新しく、別な系列の大型スーパーが建ちました。

 

この辺りで育った私にとって、あの畑の辺りは、

幼い頃からの記憶が詰まった場所でした。

 

私が、初めてあの場所を通ったのは、

幼稚園への入園が決まった春のことでした。

 

幼少の断片的な記憶の中、

母親に手を引かれ、初めて見たあの場所の景色は、

何故だか、私の中に鮮明に残っています。

 

やがて、ランドセルを背負い、

当たり前に、あの畑を眺めながら、友達と登下校し、

時々、畑の奥のビニールハウスの中で、遊ばせてもらったこともありました。

 

畑の向こうに見えたのは、

仲が良かった友達が住んでいた赤い屋根の家でした。

時々、あの家を眺めながら、

小学生の頃に、遠くへと引っ越して行った友達を、懐かしく、思い出したんでした。

 

何故だか、私は、あの辺りの道に縁があるようで、

大人になった今では、通勤ルートとして、毎日のように通る道。

 

工事が始まってから、店の完成までを、車の中から眺めながら、

幼い頃からのことを思い出していました。

 

将来、どんな人と結婚するのだろう

 

友達と、まだ見ぬ未来の大切な人の話をしたのも、

丁度、あの畑に沿った道を歩いていた時のことでした。

 

あれは、中学生の頃の私。

 

あの時、私は、

大人になった自分の姿を想像することが出来ないまま、

無意識に、畑の方へと視線を移したんでした。

 

あの頃、想像すら出来なかった数年先の私の未来には、

あなたが隣にいました。

 

やがて私たちは、家族になり、

生まれてきた我が子と3人で、

当たり前に、あの頃から変わらない景色を眺めながら、

少しずつ、人間として、親として、成長していったんでした。

 

いつだったか、あなたと一緒に、あの道を通りながら、

昔話をしたことがありましたね。

 

幼稚園も学校も、この道を通っていたんだよ

あの家には、昔、友達が住んでいてね

 

私の話に耳を傾けながら、

静かに微笑んでいたあなたのこと、今でも、よく覚えています。

 

ただ、何もない、畑だけが広がったあの場所ですが、

こうして、振り返ってみると、

あの景色の中には、たくさんの記憶が刻み込まれていました。

 

あの場所に、新しいスーパーが出来た代わりに、

少し先にある、小さなスーパーが閉店することになりました。

 

あなたを見送ってから、また少し、

この辺りは、姿を変えました。

 

もう、ここに、

あなたと見た景色はないけれど、

変わらなければ、きっと、

思い出すこともなかった小さな記憶のカケラたち。

 

移り変わる景色は、最後に、

たくさんの記憶を、思い出させてくれるものなのかも知れませんね。