拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

あなたの声

あなたへ

 

あの子が大人になるまでに、

あの子の記憶の中には、

どれくらいのあなたのことが残っているのだろう。

 

そんなことを考えたのは、

あなたを見送り、どれくらいが経った頃だったでしょうか。

 

俺、お父さんの声が思い出せないんだ

夢に出てきたお父さんと話すことはあるけれど、声が分からない

どんな声だった?

俺の声に似てる?

 

あの子がこんな話をしてくれたのは、

高校に上がった、最初の夏休みのことでした。

 

あの子の話を聞きながら、私は、

あなたを見送ってから、

再生出来ないままでいた、ビデオカメラのことを考えていました。

 

今でも、私の記憶の中に鮮明に残る、

カメラの向こう側にいるあの子に声を掛ける、あなたの声。

 

お父さんの声、聞けるよ

ビデオカメラ

今度、一緒に観ようか

 

あの時、あの子と、今度の約束をしたのでした。

 

あなたの声を忘れてしまったあの子。

 

あなたなら、きっと、

 

忘れてもいいんだよ

 

そんなふうに言うのでしょう。

 

あの子が、前を向いて、歩んでくれたら、それでいいと。

 

もしも今、あなたの声を聞くことが出来るのなら、

そこに、ほんの少しの寂しさを隠した、あなたの声が聞こえる気がします。

 

本当は、あの子に、あなたの声を聞かせてあげたい。

 

そう思いながら、あの子との今度の約束を果たせないまま、

あれから、2年が経とうとしています。

 

ごめんね。

まだ、あの頃のビデオを再生する勇気がないんだ。

 

だって、きっと、たくさん泣いてしまうから。

 

ごめんね。

もう少しだけ、待ってて。

 

いつかきっと、

あの子と一緒に、あの頃のあなたに逢いに行くからね。