拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

百獣の王

あなたへ

 

男の子は優しさを持って生まれる

女の子は強さを持って生まれる

だから

男の子には強さを

女の子には優しさを教えなさい

 

こんな言葉を目にしたのは、

もう、何年も前のことでした。

 

あなたって、ライオンみたい。

 

そんなふうに考えるようになったのは、思えば、

あの子が生まれ、

あなたがお父さんになってからだったように思います。

 

それは、男の子の父親となったあなたの本能が、

そうさせたのでしょうか。

 

獅子の子落とし

 

そんな言葉がありますが、

実際には、そんな手荒なことはせずに、とても子煩悩なライオン。

 

まだまだ謎が多いとされているその生態系ですが、

何事にも動じることなく、どんと構え、

いざとなるとその威力を発揮する、強く気高い百獣の王。

 

私の中で、そんなイメージのあるライオンとあなたは、

なんだかとても、よく似ているように見えました。

 

強くて優しいライオン。

 

そんなあなたの側は、

いつでも、安心していられる場所でした。

 

私が初めて、あの子の強さを感じた日のことを思い出していました。

 

それは、

あなたの意識がなく、その心臓が止まりかけた、

あの頃のことでした。

 

あの時、私はたくさん泣いたけれど、

あの子は、涙を堪えて言いました。

 

お父さんは、生きてる

だから、俺は泣かない と。

 

あれは、あの子が初めて、その強さを見せてくれた出来事。

 

今、思えば、あの頃のあなたは、

自身に残された時間があまりないことを悟り、

あの子に強さを教えるためにと、

残された最後の手段を使ったように感じます。

 

獅子の子落とし

 

その言葉の通り、あなたは、

崖の上から、あの子を突き落とし、

あの子を信じて、崖の底から這い上がってくることを、

じっとそこで、待っていたのだろうかと。

 

あの時のあなたは、その意識がなくとも、

崖の底から這い上がるあの子の強さを、肌で感じていたのでしょうか。

 

あれから間も無く、

あなたが息を引き取ると、あの子は、たくさんの涙を流しました。

 

あの子に、強さを教え続けてくれた、ライオンみたいなあなた。

 

あなたが此処にいてくれたのなら、

あなたは、今、どんなお父さんになっていたのだろう。

 

今のあなたは、あの子に、どんなことを教えていたのだろうかと、

時に、今のあなたのことを考えることもありますが、

あなたが何処にいるのかではなく、どんな父親だったのか。

それが重要なのかも知れません。

 

あなたが此処にいなくても、

あの子はちゃんと、あの頃のあなたから、

たくさんのことを学びながら、成長しています。

 

その命が尽きるまで、

あの子に、強さを教えたあなたは、

最期の時まで、百獣の王のように強く、勇ましかった。

 

あなたと一緒に子育てができて、本当に良かった。

 

あの子に強さを教えてくれたあなた。

ありがとう。