拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

人物画

あなたへ

 

ねぇ、あなた

動かないでね

そのまま、じっとしてて?

 

今日は、あなたの絵を描きました。

 

買い物に出掛けた時に、

なんとなく買ったスケッチブックを眺めながら、

そうだ、

この秋は、芸術の秋にしようって、思いついたの。

 

何を描こうかなって、部屋中を見渡していたら、

あなたと目が合ったから、あなたを描こうと決めました。

 

あなたの前に座って、

じっと見つめ、その特徴を捉えてみる。

 

顔の輪郭、

耳の形、

鼻の形、

こちらを見つめる目の形、

微笑んでいる唇の形。

 

あなたを見送ってから、

こんなに見つめ合ったのは、初めてだね

 

なんだか、ひとりで照れてしまった私を、

あなたは、何処かで見ていたのでしょうか。

 

絵を描くのが好きな私ですが、

人物画は、あまり描いたことがありません。

 

私が、最後に、人物画を描いた記憶があるのは、

あの子が小学生の頃の授業参観でした。

 

我が子と向かい合って座り、お互いの絵を描く。

 

そんな授業がありましたが、

恐らく、あれが、人物画を描いた最後だったと思います。

 

絵を描くのは好きだけれど、決して上手とは言えない私の作品。

 

あの授業参観の時に、私が描いた絵を見て、

あの子ったら、怖いって言ったの。

 

あの時の私は、

余程、ショックな顔をしていたのでしょう。

 

でも、上手だね なんて、

取って付けたように、あの子は、言ってくれたのでした。

 

あれは、確か、

あの子が小学2年生くらいの頃の出来事でした。

 

思い返してみれば、

今日の私の作品は、

10年振りに描く人物画になるでしょうか。

 

え?

今日の私の作品ですか?

 

そうですね・・・

 

穴が空いてしまうのではないかと心配になるほどに、

あなたと熱く見つめ合ったはずですが、

なんだか、おかしいのです。

 

あなたと見つめ合い、照れながらも、

鉛筆を動かせば、いつの間にか、

一心不乱に、ただ、あなたを描くことに集中していた私ですが、

描き終えた絵を眺めてみれば、

そこには、会ったこともない人が描かれていました。

 

これは、誰でしょうか。

 

首を傾げ、あなたの顔と交互に見比べながら、

絵を見る角度を変えたり、

少し遠目にしてみたり、

薄目で見てみたりもしましたが、

やはり、私は、この人を知らないようです。

 

この秋は、芸術の秋にしようと決めた私ですが、

買ったばかりの、真新しいスケッチブックを開けば、

1ページ目に出てくるのは、知らない人の顔。

 

何度、スケッチブックを開き直してみても、

知らない人が、こちらに微笑みかけるのです。

 

10年振りに挑戦した人物画ですが、

ちょっと、私には、敷居の高い世界だったようです。

 

さて、

今日は、美味しそうなさつまいもを頂いたので、

早速、蒸して、あなたの場所へ、お供えしました。

 

私には、食欲の秋の方が、合っているのかしら

 

そんな私の言葉に、

あなたが微笑んだように見えたのは、気のせいでしょうか。