拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

6歳年上の友達

あなたへ

 

私には、6歳年上の友達がいました。

 

他県に住む彼と私は、何の共通点もなく、

本当なら、挨拶すら、交わすこともないはずの人でした。

 

電話だけの友達だよ

 

そんなふうに、あなたに説明した時は、

なんだか、不思議そうな顔をしていましたっけ。

 

不思議な出会い方で、

不思議な関係のまま、

電話だけで続いていた、顔も知らない彼とは、

思えば、随分、長い付き合いでした。

 

電話で話す内容は、他愛もないことでしたが、

どちらからともなく、連絡をし、

近況報告をし合っていました。

 

失恋した時には励まされ、

仕事で嫌なことがあった時には、愚痴を聞いてくれました。

 

飼っていたウサギが死んでしまった時には、

 

そんなふうに悲しんだら、

ウサギちゃんだって、悲しいよ

 

そう言って、慰めてくれたのでした。

 

一緒に来るはずだった友達が来れなくなったから、

ひとりで来たんだけどさ

暇なんだよね

 

なんて、

ハワイから電話が掛かって来た時は、

爆笑しながら、彼が持て余した時間を共有しました。

 

私の携帯電話の画面に、国際電話と表示がされたのは、

後にも先にも、あの時、一度きりのことでした。

 

電話だけ。

にも関わらず、私の長い歴史を知る彼は、

時々、何年も前の出来事を引っ張り出しては、

大人になったねぇ

なんて、私をからかったりもしました。

 

お互いに、顔を知らないからこそ、

話せることもあったのでしょうか。

 

私が彼に、心を開いていたように、

彼も、たくさんの話を聞かせてくれました。

 

逢いたいと言ったこともなければ、

逢いたいと言われたこともなかった私たちの、

電話だけというその距離は、

2人にとって、丁度いい距離だったのかも知れません。

 

やがて、私は、あなたと出会いました。

 

好きな人が出来たよ

 

そんな私の報告から間も無くに、

彼にも、恋人が出来ました。

 

そうして、

やがて、お互いに、報告し合った相手と結婚しましたが、

私たちのその関係は、変わることはなく、

不思議な関係は、続いていきました。

 

恋話に花を咲かせていた私たちは、

お互いに、結婚し、親となり、

話す話題は、子育てについてと変わっていきました。

 

そんなある日のことでした。

 

もしも突然、俺と連絡が取れなくなったらさ、

宝くじが当たったと思ってね

高額当選したら、

誰にも言わずに、姿を消して、海外で、のんびり暮らすからさ

 

笑いながら、そんな話をしていた彼と、

連絡が取れなくなったのは、

あの子が、小学生の頃のことでした。

 

ずっと、宝くじが当たったのだと、本気で信じていました。

きっと、何処かで、元気にしているのだろうって。

 

それにしても、

本当に連絡が取れなくなっちゃうなんて、寂しいよね

 

時々、彼のことを思い出しながらも、

電話だけという頼りない関係は、

儚く終わっていくものなのだろうと、

そんなふうに、自分に言い聞かせたのでした。

 

彼と連絡が取れなくなり、数ヶ月後のこと。

 

彼が亡くなっていたことを知ったのは、

小さなきっかけからでした。

 

あの日、私が偶然、目にしたのは、

死亡者名が書かれたリストでした。

 

彼の名前をそこに見つけた私は、

丁度、連絡が取れなくなった頃に、亡くなったことを知ったのでした。

 

彼の名前は、少し珍しい名前でした。

間違えようがありません。

 

あまりにも衝撃的な別れに、

私は、涙を溢すこともなく、ただ、呆然と、

リストにある彼の名前を見つめ続けました。

 

私は、彼の死を誰に話すこともなく、

胸の中へと仕舞い込み、

時々、彼と電話で話した時間を思い出しながらも、

日常生活と向き合いました。

 

そうして、

目まぐるしく、バタバタと過ぎる毎日に、

私は、少しずつ、

彼のことを思い出すことが、なくなっていきました。

 

ただ、何も考えず、空を見上げていた私が、

ふと、彼のことを思い出したのは、何故だろう。

 

私がどんなに年を重ねても、6歳年上だったはずの彼は、

気が付けば、

私よりも、年下になっていました。

 

あの頃、ふざけて、

彼のことを「爺」なんて呼んでいたけれど、

今頃、何処かで、私のことを「婆」と呼んでいるかも知れないな。

 

泣きながら、なんだかちょっとだけ、笑ってしまったのは、

今日の空が、青くて、

とても綺麗だったからなのでしょう。

 

今になって、初めて、

あの頃、電話だけの友達だと説明した彼が亡くなってしまったことを、

あなたに話してみたいと思ったのは、

彼との別れに、

初めて、涙が溢れたからなのでしょうか。

 

今から、丁度、10年前の私は、

友達の死を、受け入れることが出来ずに、

無意識のうちに、記憶の奥へと、

仕舞い込んでしまっていたのかも知れません。

 

漸く、あなたに聞いてほしいと思えるようになった、

私の大切な友達の話。

 

あなたは、何処かで、

私の話を聞いてくれているでしょうか。