拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

氷柱ができる場所

あなたへ

 

こちらでは、冬の訪れを感じる季節となりました。

 

よく景色を見渡してみれば、

赤や黄色に色付いていた木々たちも、

冬を迎える準備を始めているようです。

 

外の冷たい空気に身を竦めながら、思い出していたのは、

剣みたいな氷柱のことでした。

 

あれは、いつかのお正月に、

あなたの家族と山登りへ出掛けた日のことでしたね。

 

初日の出を拝み、無事に下山すると、

私たち家族の車は、あなたの実家とは、別な場所へと到着。

 

見てごらん

 

あなたの視線の先には、

幾つもの剣みたいな氷柱が見えたのでした。

 

なにこれ?凄い!

 

あの時の、興奮したあの子と私の声を、

あなたは覚えているでしょうか。

 

私が育ったこの辺りでは、

あんなに大きな氷柱が出来ることはありません。

 

あの日、あなたが見せてくれた、初めての景色に驚き、感動したこと、

今でも、よく覚えています。

 

あれから、幾つ目かの冬に、

またあの場所へ行きたいとお願いした私でしたが、

 

毎年、あの場所に氷柱が出来るわけではないんだよ

今年は暖かいから、無理かな

寒い年に、また連れて行くよ

 

そんなふうに、

あなたは、今度の約束をしてくれたのでした。

 

思い返してみれば、

あの場所へ連れて行ってくれた年は、とても寒く、

下山途中でみつけた霜柱も、

見たことがない程の長さのものでした。

 

寒いのは苦手な私ですが、

あなたとの今度の約束を楽しみに、

あの年みたいに寒くなることを、こっそりと願ったのでした。

 

今度の約束の日は来ないままに、

そちら側へ逝ってしまったあなた。

 

寒さを感じる頃になると、時々、あの日のことを思い返します。

 

大きな氷柱に興奮する私たちを、満足そうに眺めていたあなた。

どうにか氷柱を持ち帰ろうとする私たちに、笑っていたあなた。

 

あなたの実家から、そう遠くもない何処か。

そんなふうにしか、記憶にないあの場所へ、

もう一度、行ってみたかったけれど、

あなたの家族は、あの場所を知らないそうです。

 

あの日、あなたが連れて行ってくれたあの場所は、

あなただけの秘密の場所だったのでしょうか。

 

少年だった頃のあなたが、

近所を探検しながら、あの場所を見つけた姿を想像してみました。

 

あの場所を見つけた日のあなたはね、

きっと、氷の冷たさなんて忘れて、

みつけた剣を構えて、勇者のような振る舞いをしたのでしょう。

 

そう。

あの日、興奮しながら氷柱で遊んだ、あの子と私のように。

 

もう、あの場所へ行くことは出来ませんが、

大きな氷柱が出来るあの場所が、

この先もずっと、

変わらない場所であってくれたらいいですね。

 

あの日の思い出を、

ひっそりと、そこに眠らせたままで。

 

 

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