拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

秘密基地に似た場所

あなたへ

 

私が運転免許を取ってから、

まだ間もなかった頃のことを思い出していました。

 

念願のマイカーを購入し立てだったあの頃。

私にとっての車内とは、

自分だけの秘密基地に憧れていた、

幼かった頃の気持ちを思い出させてくれるような場所でした。

 

お気に入りの場所を、自分の好きなものだけで、いっぱいにしよう。

そんなワクワクとしたあの頃の気持ち、

今でも、よく覚えています。

 

歌うことが大好きだった私は、新しく手に入れた自分だけの空間に、

嬉々としながら、お気に入りの音源たちをたくさん持ち込んだのでした。

 

秘密基地によく似た場所を移動させながら、歌を歌う時間は、

あの頃の私にとって、何よりも、大好きな時間。

 

外出からの帰り道など、

ひとりで運転する時には、少しだけ遠回りの道を選んで、

その空間を楽しんだりもしていました。

 

ひとりライブ。

 

そう。

そんな言葉がピッタリだったのかも知れません。

 

誰にも邪魔されることのない空間での私は、気持ち良く大熱唱しながら、

至福のひとときを楽しんでいたのでした。

 

そんなある日のこと。

あれは、昼間のドライブを楽しんでいた時のことでした。

 

普段は、他の車両へ目を向けることは、あまり、ありませんでしたが、

信号の待ち時間、

たまたま隣に止まっていた私と同じ車種の車に、

勝手に親近感を持ち、ふと、車内に目を向けてみると、

乗っているのは、運転席に1人だけ。

にも関わらず、

何やらずっと口が動いている様子に、

隣の彼もまた、ひとりライブを楽しんでいるに違いないと、確信しました。

 

同じ車種、そして、車内での過ごし方までもが一緒であったことに、

更に親近感が湧きながらも、

あの時の私は、初めて、

車内という空間には、1人であっても、 

常に他から丸見えであるということを学んだのでした。

 

あれからの私は、対向車が走って来る時や信号の待ち時間には、

あまり口を動かさないように気を付けながら、

歌を口ずさむようになりました。

 

ただ、車内という特別な空間を楽しんでいたい。

 

そんな気持ちが、少しずつ薄れていったのは、

好きな歌を、思うように、歌えなくなった頃からだったのかも知れません。

 

これは、あなたと出会う前の私のお話。

 

気が付けば、今年も、間も無く終わりを迎えようとしています。

 

会社を出る頃には、辺りが暗くなるこの時期の運転は、

なんだか急かされているような気がして、好きにはなれなかった私ですが、

先日の帰宅途中、

辺りの暗さや、車のライトから、

車内の様子が見え難くなることに、ふと気が付きました。

 

いえ、そんなことには、とうの昔から気が付いていたのでしょうが、

これまでの私は、それを意識したことがなかった

と言った方が正解かも知れません。

 

そうして、いつもの鼻歌から、

大熱唱へと切り替わったことは、言うまでもありません。

 

気持ち良く歌が歌えるともなれば、

この時期の夕方の運転も悪くない。

 

少し前から、遠慮なく、大きな口を開けて、歌を歌いながら、

車内での時間を楽しむようになった私は、

ふと、運転免許を取ったばかりだった、あの頃に、

よく似た感覚を思い出しました。

 

寒さも、日の短さも、好きにはなれずにいましたが、

この時期の帰宅時間が、なんとも楽しみな時間へと変わりました。

 

ここ数日は、年末のせいか、いつもよりも混雑していた帰り道でしたが、

いつもよりも長く、ひとりライブが楽しめた私は、

大満足で、家へと辿り着くことが出来ましたよ。