拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

置き手紙

あなたへ

 

年末の大掃除しようよ

 

珍しく、自分から大掃除の提案をしてきたあの子。

これまでに見たことがなかったほどのあの子のやる気に、

私も、今年は、念入りに掃除をしようと張り切ったのでした。

 

やる気モード全開で、

掃除用具を片手に、家の中を動き回っていると、

 

ねぇこれ見て

ねぇこれ捨ててもいいかな

これ懐かしくない?

 

度々あの子が声を掛けて来ました。

 

あの子の声がする度に、手を止めなれけばならなかった私ですが、

こんな時間さえもが愛おしく感じてしまうのは、

こんなふうに何気ない時間にも、限りがあるということを、

日々、感じているからなのかも知れません。

 

あの子の部屋を覗いてみれば、

此処へ越して来てから、一度も開けていなかった、

押し入れの中の段ボールを盛大に広げて、

不要物を整理しているところでした。

 

足の踏み場がなくなったあの子の部屋を眺めながら、思い出したのは、

此処への引越しの準備をしていた頃のことでした。

 

此処へ越すために、

あなたの遺品の数々を処分しなければならなかったあの頃。

 

感情を押し殺しながらの作業に、細部にまで手が回らずに、

 

取り敢えず、自分のものは段ボールに詰めておいてね

引っ越してから、ゆっくり中身を確認すればいいよ

 

そんなふうに、慌しく作業をしたのでした。

 

あれから、一度も、開けていなかった段ボールの中身。

 

俺はいらなくても、

お母さんは、取って置きたいものがあるかも知れないでしょ?

 

そんなあの子の言葉から、自分が予定していた大掃除は後回しに、

あの子の部屋に、盛大に広がった段ボールの中身を、

一緒に確認することにしたのでした。

 

中学校でのプリントや、使わなくなった教材。遊ばなくなったおもちゃ。

 

時々、思い出として取って置きたいものを集めながらみつけたのは、

あなたから、あの子への置き手紙らしき1枚の紙でした。

 

前後の文章から考えると、恐らくは、

あの子が小学生の頃のものなのでしょう。

 

パパは仕事に行ってくるよ

 

そんな内容の手紙に、あの子と2人、首を傾げました。

 

この日、何があったんだろう

 

あの子にも私にも、全く記憶にない、

あの頃の日常生活の中の一コマ。

 

きっと、この手紙を書いたあなただけは、

手紙を見れば、

あなたの中に刻み込まれた思い出を、蘇らせることが出来たのでしょう。

 

きっと、お父さんだけは、

この日のことを覚えているんだろうな

 

あの子と2人で、そんな話をしながら、

青いペンで書かれた、綺麗な文字を眺めました。

 

結局、あの子の部屋の掃除が終わる頃には日が暮れて、

私の作業は、思うように進めることは出来ませんでしたが、

余裕のない気持ちで、

引越しの準備を進めていたあの頃の私には、みつけることが出来なかった、

幸せのカケラをみつけることが出来ました。

 

夜になり、改めて、

あなたからあの子に宛てた、短い手紙を読み返してみました。

 

やはり、何度、思い返しても、

私の中に、この日の記憶は、見当たりませんでした。

 

きっと、あなたの胸の中にだけ刻まれている、この日の思い出。

 

ねぇあなた、この手紙覚えてる?

 

あなたが此処にいてくれたのなら、

どんな話を聞かせてくれたのでしょうか。

 

 

 

 

 

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