拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたが育った町

あなたへ

 

今度、うちの会社で、

交通量調査をすることになったよ

1日だけ、アルバイトやってみない?

現場は俺と同じところだから、何も心配ないよ

 

あなたのこんな話から、

交通量調査のアルバイトをすることになったのは、

あの子が、間も無く2歳になろうとしている頃だったでしょうか。

 

現場は、あなたの実家のすぐ近く。

お母さんがあの子を見ていてくれるから、心配ないよ。

早朝からの勤務だから、実家へ泊まって、そのまま現地に行こう。

そんなふうに、当日の流れが決まったのでした。

 

当日、早朝より、現地でスタンバイ。

椅子に座った私は、やる気満々でしたが、車が通らないではありませんか。

 

拍子抜けしてしまった私に、

ここは、交通量が少ない場所だから、

担当は、あなたと私の2人なのだと、説明してくれましたね。

 

あの時の私は、少し物足りなさを感じていましたが、

今思えば、交通量が少ない場所だったからこそ、

あなたが生まれ育った町を、

感じることが出来たのだと思います。

 

あの日は、とても寒い日でしたが、

近隣の方が、ご好意から、

ポットや、温かい食べ物を差し入れてくれましたね。

 

これ、良かったら食べてね

 

そう言って、手渡されたお餅が、とても温かくて、

嬉しかったこと、今でも、よく覚えています。

 

そうして、

静かだった道が、やがて、たくさんの声で、賑やかになり始めましたね。

 

子供たちの通学時間。

 

あの時の私は、

ランドセルを背負う小学生たちも、

ファンキーな出で立ちの中学生たちも、

どの子も皆、私たちの前を通ると、

おはようございます と、元気に挨拶をしてくれたことに、

とても驚き、なんだか、感動してしまったのでした。

恥ずかしさから、下を向く子など、1人もいなかった。

 

みんな自分から、挨拶してくれるね

いい子たちばかりだね

 

そんな私の言葉に、あなたは、

この辺りでは、普通だよと、笑っていましたね。

 

私が育ったこの辺りでは、

知らない人へ挨拶をするという習慣はありません。

 

知らない人には注意しましょう。

 

そんな環境で育った私にとって、

あの光景は、

今でも忘れることの出来ない素敵な光景でした。

 

先日、交通量調査を行なっている方々を見かけました。

 

信号待ちをしながら、交通量調査の方々へと視線を移し、

あの日の出来事を、鮮明に思い出しました。

 

あの日がなければ、

あなたが育った町を感じることは、なかったでしょう。

 

アルバイトに誘ってくれて、ありがとう。

あの日を過ごすことが出来て、良かった。