拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

最期

あなたへ

 

あなたが懸命に生きようと、

止まり掛けたその心臓を、

必死に動かした日のことを、私は知っています。

 

あなたの意識は、此処にはなかったけれど、

その手の温かさは、

此処に、あなたの命があることを教えてくれました。

 

最期の顔が、とても穏やかであったことも、

最後に握り締めたその手が、温かであったことも、

あの日のあなたのことを、私は知っています。

 

 

泣きながら感じた、あなたのその手の温もりは、

生涯忘れることはないでしょう。

 

あなたが息を引き取り、

数日間に渡り、冷凍保存をされた、

冷たくなったその体を、私は知っています。

 

何度あなたに触れてみても、

私がよく知るあなたの温もりは、もう、そこにはありませんでした。

ただ、眠っているように見えたあなたの体は、

完全にその体温を失いました。

 

あなたのその肉体が、此処から無くなってしまった日。

たくさんの花に囲まれて、

微笑んで眠るあなたを、私は知っています。

 

冷凍保存をされていたあなたの肉体は、

ゆっくりと溶け出したのでしょう。

薄らと掻いた不自然な汗に、あなたは、もう、

二度と目を覚ますことはないのだと思いました。

 

火葬炉へあなたを送った時には、涙が止まりませんでした。

あなたのその身体が入った棺が、火葬炉へと運ばれた後の、

ゆっくりと閉じていく扉の様子を、よく覚えています。

 

私がよく知っているあなたの姿が、此処から無くなり、

骨だけになってしまったあなたを拾う時には、手が震えました。

 

若かったあなたの骨はとても丈夫で、

骨壺に、納まりきらない骨がありました。

骨壺からはみ出た骨は、木の棒で、砕かなくてはなりませんでした。

 

喪主様

 

そう声を掛けられたけれど、

あなたの骨を砕くことがどうしても出来なくて、

動けないままでいた私の代わりに、

あなたの弟が助けてくれました。

 

あの時だけは、泣きながら、目を背けてしまったけれど、

あなたの骨が、砕けていく音を、私は知っています。

 

あの日、私がよく知っているあなたの姿は、此処からなくなりました。

 

私は、最期のその瞬間まで、懸命に生きたあなたのことも、

その人生の終わりの日も、

その肉体が、此処から無くなってしまった日のことも、

全部、知っています。

 

これは、私が生きてきた中での、一番辛い記憶。

 

あの頃の、辛い記憶を鮮明に思い出したのは、

こちら側での、コロナウイルス感染症による様々なニュースを観たことが、

きっかけでした。

 

あの頃、私が向き合ったひとつひとつの辛い出来事は、

前を向いて歩むために、向き合わなければならない大切なことであったのだと、

改めて考えさせられました。

 

不意に思い出しては、目を背けていた辛い記憶ですが、

今になって漸く、それが少し分かったような気がします。

 

きっと、何年経っても、あの時のことを思い出せば、

私は泣いてしまうのでしょう。

 

それでも、私が今、こうして前を向き、歩むことが出来るのは、

あなたの最期を、

見守ることが出来たからなのかも知れません。