拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

ヘルメットの中という空間

あなたへ

 

俺はね

バイクに乗っている時には歌うんだよ

たまに叫ぶ時もあるけどね

 

例えば、寒い冬には、寒い!と叫びながら、

そうでない時には、気持ちよく大熱唱。

 

ヘルメットの中という小さな空間を楽しんでいるのだと話して聞かせてくれたのは、

あの子がバイクに乗るようになり、

どれくらいが経った頃だったでしょうか。

 

外には聞こえないから大丈夫

 

あの時のあの子は、フルフェイスのヘルメットだから、

遠慮なく、大きな声で歌うのだと、話してくれました。

 

ヘルメットの中とは、

開放的な気持ちになれる空間なのでしょうか。

 

朝の通勤途中のことでした。

信号待ちをしながら、ふと、バックミラーを見ると、

私の車のすぐ後ろには、一台のバイクが、並んでいました。

 

あの子と同じくらいの年齢かな

 

フルフェイスのヘルメットに、顔を見ることは出来ませんでしたが、

なんとなく、そんなことを考えながら、視線を前へと戻すと、

何やら声が聞こえて来ました。

 

どこかに歩行者がいるのだろうかと、周りを見渡しても、誰もいません。

でも、私の車のすぐ近くから、声が聞こえるのです。

 

もう一度、バックミラーを見てみると、

どうやら後ろに並んでいるバイクの彼が、

大きな声で、歌を歌っているようでした。

 

まじまじと見つめてみれば、地面に付けた足は、

リズムまで取っているではありませんか。

 

それ、丸聞こえですよ

 

伝えられない言葉を飲み込んで、

私は、バックミラー越しに、

暫く、ノリノリの彼から、目を離すことが出来ませんでした。

 

あの子と同じように、

ヘルメットの中という空間を楽しんでいる彼を見つけた朝は、

なんだかとても可笑しくて、

こちらまでもが、楽しい気持ちになりました。

 

あの子に、朝の出来事を話してみれば、

走っている時でないと、さすがにヘルメットの外にも聞こえるよ と一言。

 

あの彼は、それに気付いていないのか、

それとも、気にしていないのか。

その答えは分かりませんが、

偶然見かけた彼は、憂鬱な気持ちでいた私を、

笑顔に変えてくれました。

 

楽しそうな誰かを見つけた日は、

なんだかこちらまでもが、楽しい気持ちになります。

 

ため息を吐くはずだった私を、

ミラー越しに笑わせてくれた見知らぬ彼のお陰で、

前向きな気持ちで、無事に1日を終えることが出来ました。

 

 

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