拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

2014年7月31日(木)16時36分

あなたへ

 

16時36分

 

6年前のこの時間の私は、仕事をしていました。

 

6年前のこの時間のあなたはね、

病院内のコンビニエンスストアで、買い物をしていたの。

あなたは、覚えていますか。

 

丁度、6年前のこの世界には、

あなたには、あなたの時間が、

私には私の時間が、それぞれに流れていたね。

 

小銭入れを買って来たよ

 

青色の小銭入れをあなたに渡したのは、

一般病棟へ移り、間も無くの頃のことでした。

 

漸く、ICUを出ることが出来たあの頃のあなたは、

自由に病院内にあるコンビニエンスストアへ行けるようになったことに、

とても喜んでいましたね。

 

今日は、ノートとペンを買って来たよ

 

今日買った梅のお菓子が美味しかったよ

 

あの頃から、楽しみが出来たあなたは、

楽しげに1日の様子を話してくれましたっけ。

 

あの頃のあなたが使っていた、この青色の小銭入れの中を、

ずっと、見ることが出来ずにいた私ですが、

先日の私は、何の躊躇もないままに、

ファスナーを開くことが出来たのは、何故なのでしょうか。

 

中に入っていた数枚のレシートは、綺麗に折り畳まれていて、

なんだか、とても、あなたらしかった。

 

1枚を手に取り、開いてみると、

あなたが買ったものが、印字されていました。

 

リンゴジュース

野菜ジュース

ラムネ

メロン味グミ

爪切り

 

あなたがこの買い物をする前日に、

爪切りを持って来て欲しいと頼まれていた私は、

仕事を終え、爪切りを持って、あなたに逢いに行ったけれど、

あの日のあなたは、

 

爪切り、買っちゃった

 

そう言って、

白い爪切りと、切ったばかりの爪を見せてくれたの。

 

ずっと、開くことが出来ずにいた、

青色の小銭入れの中に、待っていてくれたのは、

レシート用紙に刻まれた、あなたが此処に生きていた証でした。

 

あの日のあなたは、買い物から戻ると、早々に爪を切り、

窓際のベッドから、景色を眺めながら、

ジュースを飲んでいたのかな。

 

それとも、

ジュースを飲んで、一息ついてから、爪を切ったのでしょうか。

 

きっと、喉を潤したところで、

お菓子を食べたあなたは、その時、

どんなことを考えていましたか。

 

窓際のベッドは、とても陽当たりが良くて、

少しだけ暑かったね。

きっと、とても喉が乾いて、ジュースを2本、買ったんだね。

 

リンゴジュースと、野菜ジュース。

どちらを先に飲んだのかな。

 

2014年7月31日(木)16時36分

リンゴジュース

野菜ジュース

ラムネ

メロン味グミ

爪切り

 

これは、この世界で、あなたがした、最後の買い物。

 

レシート用紙を見つめながら、なんだか涙が溢れてしまうけれど、

このレシート用紙に刻まれた時間のあなたは、

あなただけの時間を楽しみながら、

あの子と私が、顔を出すのを、待っていてくれたんだね。

 

 

 

 

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