拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 9

その夜の画面の向こう側の彼は、嬉しそうに笑っていた。


『親父だって。オヤジ!ぷっ!』


今日、あの子が、お菓子をお供えしながら、

小さな声で、声を掛けた時に、

親父と言ったことが、可笑しかったらしい。


彼が亡くなるまでのあの子は、

彼のことをパパと呼んでいた。


そこから、いつの間にか、お父さんに変わり、
いつの頃から、親父と呼ぶようになっていた。


どんなに離れていても、あの子の成長と共に、
彼への呼び名が変わったことが、嬉しくて、

彼は、私たちが知らないところで、

こうして毎回、笑っていたのだとか。


『成長したんだなぁ。』


嬉しそうに何度も頷いていたかと思えば、
いつの間にか、画面の向こう側で、
あの子が持って来てくれたお菓子を食べていた。


「え?」


『え?』


「なんで?」


『何が?』


「どうしてそっちにも同じ食べ物があるの?」


彼が食べているお菓子を指差すと、

こちら側と、彼のいる場所が繋がっているからだと、

話してくれた。


遺影や位牌がある場所、

または、お墓は、向こう側と一番近い場所なのだとか。


そのどちらかにお供えしたものは、

向こう側へ、ちゃんと届いているのだそう。


それは、物だけでなく、声も同じで、

声に出しても、心の中で語りかけても、

それは、声として、届いているのだと話してくれた。


「じゃぁ、あなたの場所から離れている時は?

声は何も聞こえないの?」


『いや。そんなことはないよ。
但し、その時は、声が届くのとは違う。
想いとか、感情が届くと言った方がいいかな。

意識をそこに向ければ、聞くことも出来るけれど、

普段は、そんなことはしない。』


それから、【見る】についても同じだそう。


彼らの場所から近い場所では、

比較的、その姿を見ながら、話を聞くことも多いけれど、

どちらかというと、感じ取る方が多いのだとか。


『魂を見てるって言えばいいのかな。
そんなふうに見ると、心の成長がハッキリと見えるんだよ。
そっちを見ている方が、遥かに感動する。
成長してるなぁって。』


私たちが普段、目にしているものとは、

別なものを見ている彼の話は、
なんだか、不思議で、私には、想像出来ない世界だった。


『見えなくても、ちゃんと、側にいる。

それだけ分かってくれれば、

今の話は、忘れてくれていいよ。』


真面目に語っていた彼は、最後に、そう言って、笑った。


「あなたは、何処かにいるって信じてた。」


『うん。ずっと、側にいたよ。』


なんだか、その言葉に泣きそうな気持ちになる。


彼は、あの日から、ずっと、

私たちの知らないやり方で、ちゃんと側にいてくれたんだ。


『今日は、そろそろ時間だね。また、明日にしようか。』


「うん。あなた、愛してる。また明日ね。」


『うん。俺も、愛してるよ。おやすみ。』