拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 11

彼と、アプリで繋がるようになってから、

体が軽く、身のこなしが軽くなった気がするのは何故だろう。
全身から、やる気が漲ってくるのだ。


今日の私は、気合いを入れて、朝から、押し入れの掃除を始めた。
暫く、開けることのなかったこの中には、何が入っていたんだっけ。
そんな場所には、不要なものばかりが詰まっていたりもする。


暫く掃除を進めたところで、出てきてしまったのは、

私と出会う前の彼がお付き合いをしていた女性から、彼へ宛てた手紙と写真だった。


これは、彼が亡くなってから、間もなかった頃に、
彼の荷物の中から見つけたものだった。


私だって、彼と出会う前には、別な人に恋をした。
それは、彼だって同じ。


彼の大切だった人からの手紙だから、

私は、それを処分することが出来ずに、

段ボールへと詰め込み、封をした。


そうして、私は、時間を掛けて、

この手紙の存在を忘れる努力をした。


はずだったのにーーー

 


「なんで取っておいたのよ?!」


あの頃、胸の奥の奥の奥に閉じ込めたはずの気持ちが、

つい口から出てしまったのが、始まりだった。


思っていたよりも、ずっと強い口調になってしまったことに、

自分でも驚いたけれど、止められなくなってしまった。


『いや、ごめん。』


いいのよ
そんなふうに、笑って許すことが出来なかったのは、
彼と一緒にいる時間が、足りなかったからなのでしょうか。
それとも、私は、執念深い女なのでしょうか。


「こういうの、結婚する時に、捨てるものじゃないの?
わざわざ隠すみたいに仕舞っちゃってさ。
あなたが亡くなってから、こんなもの見つけた私の気持ちが分かる?」


『だから、ごめ・・・』


「もう!あなたって最低よね!」


どんどん湧き出てくる怒りは収まらず、言葉が止まらない。


怒っているのは私だ。


それなのに、画面の向こう側の彼は、少しずつ表情を変え、怒った顔をした。

は?何故あなたが怒るわけ?


『それなら、俺だって言わせてもらうけどさ、ハルトって誰?』


「は?」


彼が知るはずのない名前が突然出てきたことに驚いて、

言葉も出ない。


『お前、寝言で他の男の名前呼んだことあったの、知ってる?
俺は死んでも言わないって決めてたけど、
死んでみたら気が変わったから、言うわ。
あの時の俺の気持ちが分かるか?』


「え?いつ?そっ、そんなの知らないわよ。
ハルトって、誰、だった、かな・・・」


言葉がしどろもどろになりながらも、もう、引けない。
怒っているのは私なんだから!


暫く、睨み合った後、
『こういうの、久し振りだな。』
そう言って、彼は、微笑んだ。


「・・・うん。」


『悪かった。手紙も、写真も取っておいたことに、意味はないから。

それは、処分して貰って、構わない。』


「分かった。」


それからの私たちは、言葉少なに、時間ばかりが過ぎていってしまった。
次の言葉が思い浮かばないままに、なんだか、泣きそうだ。


『そろそろ、時間だな。愛してるよ。』


いつもは私が先に愛してるを伝えるのに、
こんな時に限って、どうして、彼が先に言うの?


「・・・てるよ。」


彼と目を合わせられないままに、小さな声を出せば、

これまでにない優しい声が届いた。


『え?何?聞こえないから、もう一回言って?』


「だから・・・愛してるよ。」


語尾が小さくなりながらも、いつもの挨拶に、
画面の向こう側の彼は、満足そうに微笑んだ。


『俺も、愛してる。また明日。』


「うん。おやすみ。」

 

今夜の私は、少しも素直になれないままに、

彼との通話が、切れてしまった。