拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 22

体が怠い。
恐らく、熱があるのだろう。
体調を崩したかも知れない。


今夜までに、熱は下がるだろうか。


いつも通り、アラームの音で、目が覚めたものの、
体を起こすのも面倒で、布団の中で横になったまま、
携帯電話の画面を見つめた。


すると、アプリが勝手に起動され、
画面の向こう側に彼の姿が映し出された。


熱でボーッとしたまま、画面を見つめていると、彼の声が聞こえた。


『しっかりしろ。今からあの子が来るから。』
その声を最後に、私の意識はなくなった。


ーーーあの子が私を呼ぶ声が聞こえる。


「お母さん!」


目を開くと、あの子が心配そうに覗き込むのが見えた。
額の冷たさに、心地よさを感じながら、何があったのかと、考えていた。


「嫌な予感がして、寄ってみたんだよ。来て良かった。」
目が覚めた私の顔を覗き込んだあの子は、安心した顔で笑った。


「お母さん、熱があるみたいだから、これから病院に行こう。」


「仕事は?」


「大丈夫。お母さんは、自分の心配だけして。」


あの子に連れられて、かかりつけの病院へ来た。

「2~3日で良くなりますよ。お薬を出しておきますね。」


ただの風邪だったらしい。


それにしても、この子は、どうして、
私が、今日、熱を出したことが分かったのだろう。


私は、あまり、体が丈夫な方ではないけれど、
何故か、ここ何年も、体調を崩すことはなかった。
熱を出したのだって、数年振りのことだ。


「なんとなく、としか言いようがないかな。
お母さんに何かある気がして、行ってみたら、布団にいたから。
心配したよ。
もう年なんだから、無理しないでよ。」


これから仕事に戻るというあの子は、
私が薬を飲むのを見届けると、帰って行った。


逆になってしまったんだな。
あの子が小さかった頃は、体調を崩したあの子を心配して、
よく病院に連れて行った。


暖かくしてね
薬を飲んでね


そんなふうに、あの子の面倒を見ていたはずなのに、
あの子が私の面倒を見てくれるだなんてね。


いつの間にか、教えることなど何もなくなり、
教わることばかりが増えた。


年々、そんなことを感じることも多くなったけれど、

今回は、堪えた。


年を取るって、こういうことなのね。


体調が悪い時は、ナーバスな気持ちになりがちだ。
今日は、もう眠ってしまおう。

 

まだ、夕方にもならない時間だけれど、とても体が怠くて、布団に横になった。


アプリ【KANATA】を開き、
彼へのメッセージを送る場所を探してみたけれど、
こちらからメッセージを送る場所が見つからない。


それなら、夜8時にアラームを掛けて少し眠ろうかと考えたところで、
携帯電話の音が鳴った。


それは、静かで、心地の良い鈴の音のような聞いたこともない音だった。


【今日は、ゆっくり休んで。
また明日、8時に待ってるよ。おやすみ。】


この、聞いたことのない音は、

アプリ【KANATA】のメッセージが送られてくる音のようだ。


返事を送りたくて、暫く試行錯誤していたけれど、
そのやり方が見つからないままに、
いつの間にか、眠りに落ちていた。