拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 30

『最近、肌が綺麗だね。恋でもしてるの?』
悪戯顔で笑う彼は、わざと言っているのだろうか。


「恋?してるわよ。あなたにね。」
素直に言葉を返せば、嬉しそうな顔をしている彼は、
何故だか、投げキッスをしてよこしてきた。


夏は、人を大胆にさせると思う。
それは、向こう側でも、同じなのだろうか。


梅雨が明け、また今年も夏がやって来た。
もうすぐ、花火大会だ。


花火大会の日には、彼の瞳に、一番綺麗な私を映したい。


そんな想いから、近頃の私は、
お風呂上がりのマッサージやパックに時間を掛けるようになった。
それから、若い頃から続けているストレッチも、念入りに。


楽しみなことがあると、それだけで、生活にも張りが出る。
近頃の私は、彼とのデートを楽しみにしていた、
若い頃のことを思い出しては、なんだかドキドキしてしまう。


「今年の花火大会はね、
偶然、あなたの命日の日と一緒の日なのよ。
ねぇ、あなた。花火、一緒に観られる?」


彼の命日と、今年の花火大会が重なるだなんて、
どんな偶然なのだろうと思う。


彼の命日は、これまでずっと、大切に過ごして来た。


彼を想い、泣いてしまったこともあれば、
泣き出しそうな気持ちで、見上げた空に、飛行機雲を見つけて、
自然と笑顔になったこともある。


涙を流した年も、そうでない年も、
彼の命日には、毎年、
ただ、彼のことだけを想って、大切に過ごして来た。


彼の命日に、彼と一緒に過ごすだなんて、
なんだかとても、不思議だけど、
大切な日だから、彼に特別な時間を送りたい。


彼とアプリで繋がるようになってから、
そんなふうに考えるようになっていた。


そうして、これまで、こっそりと、
花火大会に向けての準備を進めて来た。


私が住むこの家は、
花火大会の会場に、とても近いわけではないけれど、
離れ過ぎているわけでもなく、
比較的、綺麗に花火を観ることが出来る。


彼と一緒に、ゆっくりと過ごすために、
庭に、私たち2人だけの花火会場を準備しようと思い立って、
私用の椅子と、その隣には、
私の目の高さと同じになるように、彼専用の台を準備することにした。


彼専用の台を買いに、
幾つかの店舗を回ってみたけれど、
なかなか思うものが見つからずに、
材料を買い込んで、日々、悪戦苦闘しながら、
漸く仕上がった私の作品は、決して、上手とは言えないけれど、
ここに携帯電話を立てて置けば、きっと彼からも、
花火が綺麗に見えるはず。


彼の好きな青色に染めて仕上げたこの台は、
花火大会当日まで、彼には内緒。


『うん。いいよ。一緒に花火を観よう。』


「楽しみね。」


彼とする今度の約束は、いつでも特別だった。
その日のことを考えただけで、ワクワクしてしまうの。


彼の命日の日が楽しみで、ワクワクしてしまうだなんて、
なんだか不謹慎だと思いながらも、
やっぱり、ワクワクが止まらない。


だって、花火大会を彼と2人で観るのは、
初めてなんだもの。