拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

KANATA 32

『凄く綺麗だよ。ずっと見ていたいくらいだ。』


やだ。彼ったら。
真っ直ぐに見つめながら、そんなこと言わないでよ。


そうして、
彼に言われて、360度、回って見せると、
今日は、花火よりも、お前の姿を眺めていようかな
なんて、言い出した。


溢れ続ける笑みが、なんだかとても恥ずかしくて、
思わず、画面から顔を背けて、
存分に彼の言葉を噛みしめれば、
『ちゃんと顔、見せて?』
なんて、彼の声が聞こえてくる。


『今日のその笑顔を、ちゃんと見ておきたい。』
そんな言葉と共に。


彼の命日の日に、
こんなに笑顔が止まらないのは、初めてだ。
私は今、世界一、幸せかもしれない。


「なに言ってるの?もう、おばあちゃんなのよ。」

先ほどからの彼の言葉が、嬉しくて、恥ずかしくて、
こんな言葉を返せば、


『そんなことはない。凄く綺麗だよ。・・・浴衣が。』


ってなに?
彼は、何処にいたって彼。
そういうところも、全然、変わらないのね。


「もう!」


彼の言葉に拗ねた振りをして、
完全に後ろを向くと、
『嘘だよ。こっち向いて?』
そう言いながら、笑っている。


思い切って、浴衣を着て、良かった。


友人に、浴衣を選んでもらった話に耳を傾ける彼は、
この友人を知らない。


『素敵な友達が出来たんだね。』
彼は、嬉しそうに、私の話に頷いてくれた。


「ねぇ、あなた。夢を叶えてくれてありがとう。
私ね、向日葵の柄の浴衣を着て、
あなたと一緒に花火を観るのが、夢だったの。」


あの年。

家族3人で、最後に花火を観た年に、
こっそりと考えていたあの頃の想いを話すと、
彼は、嬉しそうに、
あの頃、そんなことを考えてくれていたんだね
そう言って、笑った。


そう。
あの頃、こっそりと思い描いていた私の夢は、
彼に伝えたことはなかった。


手は繋げないけれど、
それでもいい。


今、彼が、側にいてくれる。
ただ、それだけで。