拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

金木犀

あなたへ

 

今、私たちが住むこの場所は、

秋になると、金木犀の香りがします。

 

あの子とふたりで、此処へ越して来た頃は、寒い冬の季節でした。

 

あなたを見送り、

得体の知れない何かから逃げるように日々を過ごし、

疲れて、ボロボロになった私が、辿り着いたこの場所は、

静かで、少しだけ、空に近い場所。

 

きっと、あなたが連れて来てくれたこの場所を、

翼を休める場所と名付け、

ゆっくりとした時間を過ごしながら、

やがて、此処で過ごす初めての秋を迎えると、

部屋のすぐ側に、

金木犀の木があることに気が付いたのでした。

 

ねぇ、あなた。

あれからの毎年、

金木犀の香りに包まれながら、秋の季節を過ごしていたのに、

どうして、これまでの私は、

思い出すことがなかったのでしょうか。

 

庭に、金木犀があったらいいな

 

これは、いつかの私の言葉。

 

ねぇ、あなたは、覚えていますか。

あの時のあなたはね、苦笑いをしながら言ったの。

 

金木犀は、すぐに大きくなるんだよ

庭がなくなっちゃうよって。

 

此処へ越して来てから、4回目の秋を迎えました。

 

ベランダに出て、金木犀の香りを楽しみながら、

ふと思い出した、あの頃の私の小さな夢と、あなたの苦笑い。

 

此処へ越して来るまでの私は、焦ってばかりで、

周りの景色なんて、何も見えていなかったけれど、

あなたは、焦る私の側で、

語りかけてくれていたのでしょうか。

 

ここにしたら?

秋には、金木犀の香りがするんだよ

ほら、あそこに金木犀の木があるでしょ?って。

 

庭に、金木犀があったらいいな

 

あの頃の私が思い描いていた景色とは、少し違ったけれど、

ベランダのすぐ側に咲く、

オレンジ色の小さな花を眺めながら、

あなたは、こっそりと、

あの頃の私の夢を叶えてくれたのかなって、

ふと、そんな気がしました。

 

此処で迎えた4回目の秋に、

またひとつ、

あの頃の幸せのカケラをみつけました。

 

 

www.emiblog8.com