拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

魂が存在する証拠

あなたへ

 

お母さんね、

振り込め詐欺に遭っちゃったよ

 

こんな言葉から始まった母からの連絡に驚き、

一瞬、言葉を失ったのは、先日のことでした。

 

実害がなかったことと、

警察へ届け出をしたことを、先に報告しておきます。

 

ことの始まりは、実家に掛かってきた一本の電話からでした。

 

実家では、固定電話に掛かってきた電話に出ることはないそうですが、

その日に限って、固定電話に掛かってきた電話を、取ってしまった母。

 

電話口の相手は、役所の方を名乗り、

還付金についての説明を始めたそうです。

その手口は、よく耳にするような内容のものでしたが、

何の疑いもなく、相手の言葉を信じ込んでしまったのは、

長年連れ添った父が亡くなり、

きっと、母の心が、此処にはなかったからなのだと思います。

 

期限が過ぎてしまいます

今すぐ銀行で手続きをして下さい

 

相手のこんな言葉に促され、

母は、言われるがままに銀行へ行きました。

 

偶然に、偶然が重なるような形で、母の周りに人が集まり始めたのは、

携帯電話で話をしながら、ATMの操作を始めた頃。

集まった皆が、詐欺を疑い、母のことを止めて下さったそうです。

助けて下さった方々へ感謝の気持ちを持ちながら、

私はそこに、父の力を感じずにはいられませんでした。

 

これは、土曜日の出来事でした。

土曜日の銀行へは、何度か足を運んだことがありますが、

他の方と鉢合わせることは少なく、

店内に、自分ひとりだけという状況も珍しくはありませんでした。

 

もしも、何かのタイミングがずれていたら、

母は、店内でひとり、詐欺だということに気付くことなく、

操作を進めてしまっていたのでしょう。

ですが、あの日の母の身に流れた時間は、

タイミングが少しもずれることなく、

全ての偶然が、ひとつに重なるような不思議な時間でした。

 

偶然と呼ばれる物事には、

時に、目には見えない不思議な力が働いていることがあると、

私がそう感じるようになったのは、

あなたを見送ってからのことでした。

 

母の話を聞きながら、

これまでの私の身に起こった、不思議な出来事の数々を思い返し、

あの日、きっと父は、母を助けるために、

そこに偶然を作り出したに違いないと思いました。

 

銀行内で、声を掛けて下さった方の口調を真似て、

話を聞かせてくれた母ですが、

不思議なことに、

始めに声を掛けて下さった方の口調と、父の口調が重なりました。

 

あの日、最初に母に声を掛けたのは、

姿を変えた父であったのかも知れないと、

そんなふうにも思えました。

 

長い間、ベッドの上での生活だった父ですが、

今頃は、自由に動き回りながら、

きっと、片時も離れることなく、

母の側へ、そっと寄り添ってくれているのでしょう。

 

母の身に起こった不思議な偶然に、またひとつ、

此処に肉体はなくとも、

その魂が存在する確かな証拠を見つけたような気がしました。

 

 

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