拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

家にいる男のアレ

あなたへ

 

今日の私は、大荷物を持って帰宅しました。

あの子からのリクエストであるカップ麺をたくさん買って来たのです。

 

オンライン授業から始まったあの子の新学期ですが、

この期間のあの子は、勉強をしながら、同時に、

バイクの組み立てに向けて、

部品の手入れをするという新たな取り組みに挑戦しています。

 

勉強もしたいし、バイクのこともしたい。

そんなあの子は、通学に時間を取られることもなく、

また、家の中の何処にいても、授業を受けることの出来るこの現状を存分に生かし、

あの子なりの有意義な過ごし方を見つけたようです。

 

仕事から帰った私を迎えてくれるのは、工具や紙やすりを手にしたあの子。

疲れて帰って来た私に、あの子の楽しそうな笑顔が、癒しを与えてくれるのです。

 

充実した毎日を送るあの子が、

カップ麺についてを語ってくれたのは、先日のことでした。

お腹が空いたらすぐに食べられるよう、食事の準備はしてありますが、

あの子は、カップ麺が食べたいのだそう。

 

あの子が言うには、食事とカップ麺は、違うのだそうです。

準備している食事が足りないとか、そのようなことではなく、

食事の他にカップ麺は、必需品なのだとか。

 

それはさ、家にいる男のアレだよと、

あの日のあの子のこんな言葉が、私の中に、とても印象に残りました。

 

家にいる男のアレ

 

私の中で何度もその言葉を反芻しながら、思い出していたのは、

時々、平日がお休みだったあなたのことでした。

 

思えば、平日に、1人で家で過ごしていたあなたも、

買い置きのカップ麺を食べていましたっけ。 

ねぇ、あなたなら、分かるのでしょうか。

あの子の言う、家にいる男のアレが。

 

あの子に言われるがままに、様々な種類のカップ麺を揃えながらも、

気になってしまうのは、健康面ですが、

思えば、昨年のあの子は、なかなか進学先へ入学出来ずに、

長い春休みを過ごしながら、とても不安そうな顔で、毎日を送っていました。

 

あの頃の私は、あの子を1人にしておいても大丈夫だろうかと、

たくさんの心配がありましたが、

今、ここには、あの子の不安そうな顔などひとつもありません。

 

オンライン授業の期間を存分に有効活用しながら、

カップ麺が食べたいと笑っている今の方が、

ずっと健康的と言えるのかも知れません。

 

カップ麺を、幾つも籠に入れながら、

ふと、目に止まったのは、あなたが好んで食べていた種類のものでした。

これは、あなたの分。

 

今日は、あなたの場所にも、カップ麺のお供えをしました。

明日は、あの子と一緒に、

家にいる男のアレを楽しんでくださいね。

 

 

 

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すり替わった考えごと

あなたへ

 

1日だけ、アルバイトやってみない?

 

不意に、あなたのこんな声が蘇ったのは、先日のことでした。

あれは、この人生の中で一度だけ、あなたと一緒に仕事をした思い出。

 

改めて、あの日のことを思い返してみると、ひとつ、気が付いたことがありました。

あなたは、私にとても甘かったなって。

 

あの日の私は、1日だけ、

あなたが勤めていた会社に雇われて、アルバイトをしましたが、

1日だけのアルバイトだったから、そこに厳しさは必要ないと考えていたからなのか、

それとも、仕事のペアが私だったからなのか。

何度思い返してみても、仕事であるはずのあの時間の中に、

あなたの厳しさは、全く感じられずに、

隣にいたあなたが、ただ優しかったことだけが蘇りました。

 

とても寒かった日の外での作業。

 

寒いから、車の中で暖まっておいで

お菓子もあるよ

トイレは大丈夫?

 

あの日の中に詰まっていたのは、

私を気遣ってくれた、たくさんのあなたの声。

 

え?でも、今、仕事中だよね?

 

こんな私の言葉に、

大丈夫だから、暖まっておいでと、暖房を全開にした車内で、

暖まる時間を取ってくれました。

 

あなたは、本当は、仕事に対して、とても厳しい人。

一緒に仕事をしたことがなくたって、絶対にそうであることが分かっていたから、

本当は、覚悟を決めて臨んだはずの1日でした。

 

高額な条件に惹かれて頷いたものの、

仕事中のあなたはきっと、とても厳しいんだろうな。

身内の私にだからこそ、更に厳しいのかも知れないなって。

 

覚悟を決めていたはずなのに、

拍子抜けするほどに、あの日のあなたは、

私に、たくさんの気遣いをしてくれましたね。

 

先日の私が、空を見上げながら、考えていたのは、仕事についてでした。

私のこれまでの仕事に対する考え方や今後について。

そして、これまでの私は、

職場で、何を学び、何を積み重ねてきたのか。

 

とても真剣に、考えごとをしていたはずなのに、

いつの間にか、私の中での考えごとは、

あの日の、ただ優しく、私に対してとても甘かったあなたについてへと、

すり替わっていたのでした。

 

あの日の私は、あなたを心配させてしまうような顔で、

空を見上げていたのでしょうか。

 

何故だか、ふと、蘇った記憶に、考えごとがすり替わり、

ひとりでに頬が緩んでしまったあの時間に、

もしも意味があるのなら、

もっと緩くていいんじゃない?って、

そこには、あなたからのそんな想いが込められていたような気がしてしました。

 

 

 

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分解してみよう

あなたへ

 

これ、使えないかも知れない

 

バイクの部品のひとつを眺めながら、難しい顔をしていたのは、先日のあの子。

どこがどうなっているのかは、分からないけれど、

本来であれば、回らなければならない箇所が、何故か回らずに、

苦戦していた様子のあの子は、暫く悩むと、大きな賭けに出ました。

 

分解してみよう

 

これは、例えば、ネジを外して中を確認するなどといった、

単純な作業なんかではありません。

本来、後から外せるようなものではない箇所を、

無理矢理に外すという高度な技を必要とする作業なのです。

万が一、失敗してしまった場合には、その部品は、

完全にゴミになってしまう危険性を孕んだ非常に恐ろしい賭けでした。

 

工具を片手に、真剣な面持ちで、

作業を開始したあの子の姿を見つめながら、思い出していたのは、

小学生だったあの子の夏休みのことでした。

 

電卓や目覚まし時計。

身の回りのものの分解をテーマに、夏休みの自由研究をしたのは、

あの子が小学生の高学年の頃だったでしょうか。

 

お喋りが大好きで、いつでも騒がしかったあの子が、

長い時間、集中して、静かに分解に取り組んでいたその姿は、

それまでの私がたちが気付くことの出来なかったあの子の意外な一面でしたね。

あの時間がなければ、いつもとは違うあの子の側面を見つけることは、

きっと出来なかったのでしょう。

 

あの夏休みのあの子と、

工具を片手に、真剣な面持ちで作業をする目の前のあの子を重ね合わせて見守る中、

部品の分解は、見事に成功し、原因を突き止める事が出来たあの子。

 

なんだ

ここがこうなっていたんだ

 

これから先の私の人生において、

恐らく、二度と見る機会のないであろうその中身を見ることが出来たのは、

私にとって、とても貴重な時間だったと思います。

 

あの子の一か八かの賭けは、見事に成功しましたが、その安堵の時間も束の間に、

あの子の前には、元に戻せるのだろうかと、思わず心配になるほどに、

小さなパーツがたくさん並んでいました。

 

分解をテーマに、自由研究をした夏休みのあの子は、

最後に、組み立てにも挑戦しましたね。

あの時は、幾つかのパーツが余ってしまいましたが、今のあの子は、違いました。

 

大丈夫

俺、どうなっていたか、全部、覚えているから

 

自信満々のあの子の言葉の通り、組み立ても完璧に。

そうして、見事に問題を解決することが出来たのでした。

 

あの時の経験が、今に生きているよね

 

部品を分解しながら、あの子もまた、

私が思い出していた夏と同じ夏を振り返っていたようでした。

 

どこで、どんな経験が生かされてくるのかなど、

本当に分からないものです。

 

今回の問題については、

自分で分解せずに、プロの方に相談する方法もありましたが、

自分でやってみたいのだと、あの子は、大きな勝負に出ました。

 

手を掛け、時間を掛けながら、

乗ってみたいと夢見ていたバイクを組み立てる時間を、

あの子は今、とても楽しんでいます。

 

我が家の廊下をトレジャーロードと呼ぶことにしましたと、

こんな手紙を書いたのは、先日のことでしたが、

あれから、更に幾つかの荷物が届き、

トレジャーロードには、更に宝物が増えました。

 

新しい荷物が届く度に、目を輝かせるあの子を見守りながら、

あの日、あの子の背中を押すことが出来て、本当に良かったなと、

改めて感じる今日この頃です。

 

 

 

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