拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

我が家のハロウィン様式

あなたへ あの子が、幼稚園に上がった頃からだったでしょうか。 毎年のハロウィンには、 あの子にお菓子をプレゼントするようになった我が家。 Trick or Treat! 幼かったあの子の可愛らしい声を、 あなたは、覚えているでしょうか。 あれは、あなたを見送り…

白い煙

あなたへ いつからだろう。 あなたの遺影を見つめる私の視界の端に、 時々、見えるものがあります。 それは、白い煙のようなもの。 あなたを見送り、 いつの頃から見えるようになったのか、 視界の端に、ふわりと映り込む白い煙は、 一瞬で消えてしまうけれ…

電話での第一声

あなたへ 俺ね、友達と電話で話す時、何故か敬語になっちゃうの だから、俺の両親は、俺が友達と話す時は、 いつも敬語だと思っているんだよ あなたがこんな話をして聞かせてくれたのは、 私たちが出会ってから、 どれくらいが経った頃だったでしょうか。 お…

金木犀

あなたへ 今、私たちが住むこの場所は、 秋になると、金木犀の香りがします。 あの子とふたりで、此処へ越して来た頃は、寒い冬の季節でした。 あなたを見送り、 得体の知れない何かから逃げるように日々を過ごし、 疲れて、ボロボロになった私が、辿り着い…

コトバ -秋- 2020

秋の色を覚えていますか 秋の音を覚えていますか 秋の風を覚えていますか その瞳に映った景色 その耳で感じた季節 その肌で感じた温度を 覚えていますか 一緒に過ごした4番目の秋 ふたりだけで見た 最後の秋を覚えていますか 産婦人科でもらった あの子のエ…

KANATA 40 -彼がいる世界より-

アプリでの繋がりを終了させること。 それは、こっち側での、祝いにあたる。 向こう側へ遺してきた人の、新しい出発を意味するからだ。 アプリを終了させる手続きに行った時には、 「おめでとうございます。」 そう祝福され、最後に、手渡されたのは、 アプ…

KANATA 39 -彼がいる世界より-

彼女の中の記憶を抹消し、時間を戻した後、 俺は、彼女のすぐ側で、目を覚ますまでを見守った。 目を覚ました彼女は、部屋中を見渡し、不思議そうな顔をした。 「あら、嫌だ。寝ちゃったのかしら。」 そんなことを呟きながら。 一見して、アプリで繋がる前と…

KANATA 38 -彼がいる世界より-

虹花草が静かに揺れる様子を眺めながら、 浴衣姿の彼女の笑顔を思い出していた。 あれから、向こう側では、1か月が過ぎた。 あの日・・・ アプリで彼女と最後に繋がった日、 俺は、彼女に嘘をついた。 本当のことを話しながら、彼女を納得させるやり方もあっ…

KANATA 37 -彼がいる世界より-

画面の向こう側、眠っている彼女を見つめた。 『辛い思いをさせて、悪かった。 でも、ちゃんと見ておきたかったんだ。 辛くても、前を向いて歩もうとするお前の姿を。 そうじゃないと・・・意味がないんだ。』 彼女の涙を拭い、頬に手を当ててみる。 俺は、…

KANATA 36

『色々な話が聞けて、安心したよ。お前の側には、たくさんの素敵な人がいる。1人なんかじゃない。そうだろ?』 私が頷いたことを確認すると、一呼吸置いた彼は言った。 『このアプリさ・・・試作段階だって、前に話したろ?』 「・・・うん。」 胸の奥がギュ…

KANATA 35

『花火、ありがとう。驚いた。凄く綺麗だったね。』 楽しかった花火大会が終わり、私たちは、部屋に戻って、コーヒーを飲むことにした。 あの花火は、どうしたのかと聞かれ、花火が上がるまでのことを、彼に話して聞かせた。 古くからの友人と、ランチをしな…

KANATA 34

夕食を終えると、私たちは、庭に出た。今日は晴天。きっと、綺麗に花火が見えるだろう。 庭先に用意した椅子に座って、携帯電話を隣の台に乗せた。 「これは、あなた専用よ。私が作ったの。凄いでしょ?」 不出来な手作りの台に、彼は笑うかなって思っていた…

KANATA 33

焼きそばお好み焼き焼きとうもろこしフランクフルト焼きイカそれからチョコバナナ 今日の私は、張り切って、お祭りメニューを準備した。 彼に、今日の食事を発表すると、『今、食べたい!』なんて、言い出して、私たちは、早めの夕食を摂ることにした。 『お…

KANATA 32

『凄く綺麗だよ。ずっと見ていたいくらいだ。』 やだ。彼ったら。真っ直ぐに見つめながら、そんなこと言わないでよ。 そうして、彼に言われて、360度、回って見せると、今日は、花火よりも、お前の姿を眺めていようかななんて、言い出した。 溢れ続ける笑み…

KANATA 31

いつもよりも早くに目が覚めた私は、まず、彼にお線香をあげて、手を合わせた。そうして、彼が元気だった頃からの記憶を順番に辿りながら、彼を想う。 今日は、8月8日。彼の命日だ。 絶対に、この手の温もりを忘れない。 そう誓って、最後に彼の手を握り締め…

KANATA 30

『最近、肌が綺麗だね。恋でもしてるの?』悪戯顔で笑う彼は、わざと言っているのだろうか。 「恋?してるわよ。あなたにね。」素直に言葉を返せば、嬉しそうな顔をしている彼は、何故だか、投げキッスをしてよこしてきた。 夏は、人を大胆にさせると思う。…

KANATA 29

梅雨明けが待ち遠しい。今年もまた、彼と出会った夏が来る。 今年は、忘れられない特別な夏にするの。だって、彼と一緒に過ごす夏だから。 私は今、とある秘密計画を遂行するために、日々、粛々と準備を進めている。 「やっぱり、これにして正解でしょう?」…

KANATA 28

七夕に降る雨を、催涙雨と呼ぶのだそうだ。 七夕の朝に降る雨は、逢えなかった1年分の嘆きの涙。昼から夕方にかけて降る雨は、再開した喜びの涙。夜から明け方にかけて降る雨は、別れの悲しみの涙。 雨が降る時間帯によって、その意味が違うのだとか。 今日…

KANATA 27

充実した毎日とは、こんな毎日を言うのだろう。 夢を持つことが出来た私は、あれからも、夢を叶えるための活動をしながら過ごしている。 もちろん、彼には、内緒だ。 若い頃のように、夢を持てたことが嬉しくて、「もう、おばあちゃんなのに。」って、時々、…

KANATA 26

暖かな春を過ぎ、初夏の陽気を感じさせながら、やがてやって来るのは、梅雨の季節。 今年の梅雨は、雨が多い。 梅雨に入ってからからの私は、キッチンに立つ時間が増えた。 私は、料理が苦手だ。にも関わらず、ここ最近の私が、料理に精を出すようになったの…

KANATA 25

待ちに待った、桜の季節がやって来た。 ここに1人で来るようになってから、もう、何年になるだろう。 ここは、桜が咲く土手の上。 川沿いに、桜が咲くこの場所は、子育てに追われながらも、家族3人で笑っていた、今よりもずっと若かった頃の私が、いつか、ず…

KANATA 24

寒さも和らぎ、春の陽気を感じられるようになった。 連日、青空が広がり、日中には、暖かく柔らかな風が吹いていたのは、昨日までのこと。 窓の外を確認しなくても、今日の天気が分かってしまう。 今日は、朝から土砂降りの雨。 お誕生日、おめでとう。 朝、…

KANATA 23

朝、起きると、あの子に、昨日のお礼と、元気になったことを連絡した。 あの子のお陰で、昨夜の体調の悪さが嘘のように、元気になった。 家中の窓を開放し、空気を入れ替え、気分を上げるために、部屋中の掃除をしようと思っていたところで、 無理はしないで…

KANATA 22

体が怠い。恐らく、熱があるのだろう。体調を崩したかも知れない。 今夜までに、熱は下がるだろうか。 いつも通り、アラームの音で、目が覚めたものの、体を起こすのも面倒で、布団の中で横になったまま、携帯電話の画面を見つめた。 すると、アプリが勝手に…

KANATA 21

いつからだろう。そう。 彼とアプリで繋がるようになってからだ。 「だって、私、もう、おばあちゃんなのよ。」 思わず、独り言を言いながらも、なんだかとても、ワクワクする。 「でもね、きっと、夢を持つのに、遅すぎるなんてことはないわ。」 ワクワクが…

KANATA 20

「こんなふうに、またあなたと一緒に、この日を過ごせるだなんて、 思ってもいなかったよ。おめでとう・・・って言ってもいいのかな。」 『ありがとう。もちろんだよ。』 「あなた。お誕生日、おめでとう。」 我が家では、彼が亡くなってからも、毎年、彼の…

KANATA 19

アプリの創設者。名は、カイトと言う。彼もまた、若くにこちら側へ来なければならなかった人間のひとりだった。 カイトの妻は、彼の死後、寝込むことが多くなり、表情がなくなった。カイトは、一時も離れることなく、彼女には聞こえない声で、語り続けた。 …

KANATA 18

「ねぇ、あなた。これ見て?凄いでしょ?」 これは、今日、あの子から届いたアルバム。私が、ひ孫に会いに行った時の写真や、ひ孫のその後の成長が映った写真。それから、お正月の時の写真を、アルバムにして、送ってくれた。 アルバムを180度に開くと、写真…

KANATA 17

クリスマスを過ぎると、毎年、慌ただしさを感じる。 年を重ね、静かな日々を送るようになったら、年末特有の慌ただしさを感じることもなくなるのだろうかと、いつか、そんなことを考えたこともあったけれど、そこに年齢は、関係なかったようだ。 今年も例外…

KANATA 16

プレゼント、ありがとう。 今日の私たちは、アプリで繋がるなり、同時に同じ言葉を言い合って、笑ってしまった。 『俺からのクリスマスプレゼントって気付いてくれてたんだ?』「うん。」 気付かないわけがない。 彼が亡くなってからの毎年、クリスマスには…