emi's fantasy 亡き夫と過ごした7日間
あの日の翌朝、 温かなものに包まれる感触で目が覚めたことは、今でもはっきりと覚えている。 私が起き出すと、あの子もまた同時に起きて来た。 きっと、私と同じようにして、目が覚めたのだろう。 「お父さんは、元に戻ったんだね。」 おはようの挨拶よりも…
今日も、朝から青空が広がり、とても気持ちが良い日だ。 お昼を食べ終えた私たちは、 薔薇が咲く公園内をゆっくりと一周した。 そうして最後に、あの子が連れて行ってくれたのは、近所の公園だった。 此処は、私たち家族3人にとって、最もたくさんの思い出が…
ファーストフード店でお昼ご飯を買い込みながら、 次に到着した先は、薔薇が咲く公園だった。 「え?嬉しい!もう一度、此処に来たいと思っていたの!」 思わずこんな声を上げれば、だと思った、と、あの子が笑っている。 此処は、家から少し距離があって、…
チーーーン いつも通り、おりんを鳴らす夫の姿をあの子と2人で見守れば、 夫の身体が一瞬、七色に輝くと、ほんの少しだけ、身体が透けて見えたのは、 夫が物質化されてから7日目の朝だった。 思わずあの子と顔を見合わせたものの、 私たちは、何も言葉にはし…
「ねぇ、あなたの人生の目的は何だったの?」 物質化されてからの夫は、本当に様々な話を聞かせてくれたけれど、 思えば夫は、自分の話をあまり聞かせてくれていない。 これは、実は、夫に聞いてみたかったことだ。 『俺があの人生を選んだ目的は、たくさん…
『起きて?ねぇ起きて?』 今朝も、夫の声で目が覚めた。 夫が物質化されてからというもの、こうして毎朝、夫が起こしてくれている。 そう。1日だけ、寝坊した日もあったけれど。 生身の身体ではない夫だけは、眠らない。 だからこうして時間が来たら、あの…
気が付けば、とっくに夕方を過ぎている。 今日は、これまでとは違う視点からの話が出来たお陰で、 本当に色々なことを知れた。 夫を元に戻す方法は、何一つ見つけることが出来なかったけれど、 この時間は、あの子と私にとって、とても意味のある深い時間と…
『それなら、魔法の言葉を教えておくよ。 幸せだなって言いながら生きているとね、 勝手に幸せに生きられるようになるんだよ。 人が話す言葉ってね、実は魔法の呪文と同じなんだよ。』 例えば毎日、ネガティブな言葉を発する人がいるとする。 陰口、愚痴、不…
ゴリラの人の前々世の話を聞き終えた私たちは、暫く言葉も出なかった。 ただ静かにその余韻に浸っていた。 「家も財産も、奥さんに置いて行くって、凄いよね。 折角、そこまでになったのに、手放すのって、勇気が入ることだよね。」 やがて、口を開いたのは…
こうして彼は、世界中を旅する者となった。 かつて築いた財産はもう手元にはなかったが、 不思議と金に困ることはなかった。 立ち寄る先々で、彼はただ旅の出来事を語るだけでよかった。 面白おかしく、時に静かに。 そうして話す彼の言葉に、人々は耳を傾け…
旅に出てからの彼は、毎日をただ歩いた。 名も知らぬ町を訪れ、店先で地元の人と交わす何気ない会話に耳を傾けた。 市場のざわめき、子どもたちの笑い声、どこかから流れてくる笛の音。 そんな中で、彼は少しずつ表情を変えて行った。 ある日、旅の途中で知…
結婚しても、彼の日々は殆ど変わらなかった。 早朝に目を覚まし、机に向かい、書類と数字に没頭する。 屋敷の中にはもうひとりの住人が加わっていたが、 その存在は、ごく静かで、彼の生活の流れを乱すことはなかった。 朝食には彼女の手で温かな紅茶が添え…
孤児院の礼拝堂は、午前の光に包まれていた。 子どもたちの朗読する声が、控えめに反響している。 扉の陰からそっと覗くと、 黒い簡素なドレスに身を包んだ若い女性が、子どもたちの前に立っていた。 声を荒げることなく、しかし一言一言がしっかりと届く話…
教会の扉が、ぎい、と古びた音を立てて開いた。 秋の風が石の回廊を通り抜け、かすかに香炉の残り香を揺らした。 彼は足音を忍ばせながら、ゆっくりと中へ入っていった。 祭壇の蝋燭の光が、長い影を床に落とす。 ここは、彼が幼い日々を過ごした場所。 寒さ…
見習いとして仕えてきた事務所を、彼は自らの意思で離れる決意をした。 エドマンドは止めなかった。 むしろ、穏やかな表情で言った。 「これからは君自身の目で選び、自分の責任で動く時だ。」 彼は深く頭を下げてその言葉を受け取った。 彼は21歳になった時…
印刷工場へ退職の意思を伝えると、意外にもあっさりと受け入れられた。 「真面目に働いてくれたからな」と工場長は言い、 最後の給金には、少しだけ色をつけて送り出してくれた。 こうして彼は、長く働いた印刷工場に別れを告げ、 翌週からは、エドマンド・A…
靴磨きと印刷工場の両立は確かに大変だった。 でも、彼はこんな生活を2年続けた。 そんなある日、彼の元に1通の封筒が届いた。 彼が封筒を開けた瞬間、ほんのわずかな銀貨が転がり出た。 額は大きくなかった。だが、それは確かに戻ってきた金だった。 いや、…
自分にとっての大きな前進をした彼は、 此処からどんなふうにして行くのかを考えた。 同じやり方で、様々な企業の出資者になるのは、 少し無理があるのではないかと考えた彼は、副業を始めことにした。靴磨きだ。 印刷工場へ仕事に行く前の時間と、日曜日。 …
『ゴリラの人がゴリラとして生まれ変わる前のそのまた前の生に遡る。 これは、ゴリラの前々世の話だ。』 その魂ーーー彼は、孤児だった。 産まれて間もない頃に、ある教会のドアの前に捨てられていたのだ。 彼が育ったのは、教会が運営する孤児院だった。 彼…
「この彼女は、今も何処かで元気にしてるの?」 これはあの子からの質問だ。 『いや。この人生を全うして、こっちに還って来ていたけれど、また生まれたよ。 今頃、赤ちゃんだと思うよ。』 その魂は、今回のマイナスのエネルギーが届くようになった問題で、 …
「貴女を一目見た時にね。とても素敵な人だなって思ったの。 こんな人がうちで働いてくれたら、毎日がもっと楽しくなるだろうなって。 それで勇気を出して声を掛けたのよ。 あの時、勇気を出して声を掛けて本当に良かった。」 彼女が弁当屋の奥さんからこん…
「良かったら、うちで働かない?」 彼女の耳には、こんな言葉が届いたのだ。 驚きながら、しっかりと女性を見つめてみれば、 彼女よりも、ひとまわり以上、年上であろう女性がニコニコと笑っていた。 何故だか理由は分からなかったけれど、彼女は、この女性…
『俺は今、凄く極端な話をしたけれど、普通と呼ばれる人生の中で、 とても幸せな毎日を過ごす人も実はたくさんいるんだよ。』 その魂が持った夢は、この世界で大好きな人と出会って、 幸せな家庭を築き、毎日、幸せに暮らすこと、だったそうだ。 年頃になっ…
「いやーでも、俺、同じ人生をもう一回生きるのは嫌だな。」 パソコンから顔を上げたあの子は、この人生は一回で良いし、 他の人生も全部、一回ずつで良いと笑っている。 うん。私も嫌だ。この人生をもう一度生きるとか、絶対に考えられない。 もう、二度と…
「あ!そうだ!」 アレはどうだろうかと思った。 朝食を摂りながら、私はひとつ、思い出したのだ。 向こう側の取り組みのひとつとして、 動物に生まれ変わった魂がいると、夫はこんな話を聞かせてくれた。 「それならさ、その動物に会いに行くっていうのはど…
チーーーン 向こう側の事故によって、夫が我が家へ帰って来てから、5日目。 今朝も元気に夫がおりんを鳴らしたところから我が家の新しい朝が始まった。 夫がおりんを鳴らし終えたら、3人でコーヒーを飲むところまでが、 今の我が家での朝の流れだ。 「ゴリラ…
日が暮れて、辺りが暗くなる頃に、漸く家へと帰ることが出来た。 『ここをこんなふうにすると、ほら、こうなるんだよね。』 「あぁ!そんなやり方もあるのか!マジでお父さんって凄いわ。」 ただいまの声を掛けるのを辞めて、部屋の入り口から、 2人の様子を…
チーーーン 今朝も元気におりんを鳴らすのは、あの子でも、私でもなく、夫だ。 あれからの毎朝、夫は、何故か自分の仏壇に、手を合わせている。 「ねぇ、なんで、自分の仏壇に手を合わせるの?」 こんなふうに聞いてみたのは、夫と再会した翌朝のことだった…
長い散歩から帰って来た私は、早速、キッチンへと立つことにした。 辺りは少しずつ、暗くなり始めている。 「今日のご飯は何?」 キッチンに立てば聞こえて来るのは、こんなあの子の声だ。 今夜は、唐揚げを作ることに決めていた。 実は、昨日のうちに下ごし…
「ところで、マイナスのエネルギーの塊みたいな人たちは、今、どうしてるの?」 これは、密かにずっと疑問に思っていたことだった。 『多分、今もみんなで洗ってると思う。』 「え?マイナスのエネルギーって、洗えば落ちるの?」 『分からない。こんなこと…