あなたへ
あなたは病床時に言いましたね。
私の手を握り、
「俺から、離れないで」と。
あの時のあなたは、快方に向かっていて、一般病棟に移った時でした。
私は、あの時、あなたがいなくなるだなんて、思ってもいなかったけれど、
あなたは、違ったのでしょうか。
なぜ、突然、あんな事を言い出したのかと、不思議で、ちょっと心配でしたよ。
もしも、この世を去る事になったら、なんて悪い事を想像して、
いつか、私の気持ちが、
あなたから、離れてしまうかも知れないと、
そんなふうに、考えていたのでしょうか。
あなたを送り出し、しばらく経った頃からでしょうか。
周りの知人や友人から、
他の誰かと生きるという道もあるんだよ 再婚という選択肢もあるよ
なんて、言われたりもします。
きっと、私を心配しての事なのでしょう。
でも、無理ですよ。
こう見えて、私の理想は、とても高いのです。
短気で、屁理屈で、頑固で、我儘で、
気難しくて、不器用で、甘えん坊で、
耳掃除お願いします なんて、突然、私の膝の上に、頭を乗せてきたり、
私が淹れたコーヒーに甘さが足りないと、
愛情が足りない なんて騒ぎながらも、残さずに、飲み干し、
愛情たっぷりの2杯目お願いします なんて、笑って、
空のマグカップを、差し出したり、
夏は、アイスクリームばかり食べて、
お腹壊すよなんて怒ろうものなら、夜中にこっそり食べちゃったり、
決して顔には出さないけれど、本当は心配性で、ちょっぴりヤキモチ焼きで、
いつでも冷静で、優しくて、
夜中にチョコレートが、食べたいと言ったら、買いに行ってくれて、
困った事があると、一緒に答えを考えてくれて、
悲しい時は、寄り添ってくれて、
何でも、一生懸命で、男らしくて、頑張り屋で、我慢強くて、
どんなに喧嘩しても、必ず仲直り出来て、
喧嘩できて嬉しい っ言ってくれて、
うちは、仲良し夫婦だね なんて、恥ずかしげもなく言ってくれたり、
力持ちで、高いところにあるものを取る時には、私を片手で持ち上げてくれて、
字がきれいで、
手先が器用で、私の前髪を切ってくれて、
どこに行く時も、いつも一緒で、
約束を守ってくれて、
辛いことがあれば、寄り添ってくれて、
いつも、あの子と私のことを一番に考えていてくれて、
私のことを、誰よりも理解してくれて、
お互いの悪い部分も全部、許し合える相手。
こんなに、子供みたいで、面倒で、頼もしくて、
一緒にいると安心できる人が、
あなた以外に、他にいると思いますか?
心配しないでください。
私の気持ちは、あなたから、離れたりしませんよ。
私達は、離れ離れになってしまったけれど、
あなたの言葉は、1日も私から離れることなく、
ずっと、私に寄り添ってくれています。
「俺から、離れないで」
それは、不器用なあなたからの、精一杯の、
愛してる
にも聞こえました。
私も、あなたを愛しています。
離れ離れになってしまったけれど、
心配しないでください。
私は、あなたから、一生分の愛をもらいましたから。