あなたへ
先日、あの子と一緒に、マスカットを食べながら、
ふと、思い出し、
20年前に亡くなった、私のおじいちゃんの話をしました。
私が、小さかった頃、おじいちゃんは、庭で、マスカットを育てていてね。
おじいちゃんの家の近所に住んでいた、
私と同じくらいの年頃の女の子と一緒に、遊んでいるところに、
マスカットを一房ずつ、持ってきてくれたんだよ。
小さかったから、一緒に遊んでいた子の名前も覚えていないけれど、
おじいちゃんが、マスカットを、蔓から切って、持ってきてくれた事だけは、
よく覚えてるんだ。
そんな私の話にあの子は、言いました。
誰かがこの世からいなくなっても、
他の誰かの記憶にその人の記憶が残っている間は、
まだ、本当には、死んでいなくて、
それは、きっと、生きているって事だと思う。
たくさんの時間が過ぎて、この世の誰の記憶にも、残らなくなった時が、
本当に、人が死ぬ時なんだと思うよ。
僕も、そのマスカット、食べてみたかったな と。
その言葉に、私には、あなたが見えました。
あの子の輪郭、手、筋肉のつき方、
あなたにそっくりなところが、たくさんあるけれど、
あの子の言葉や感覚にも、時々、あなたが見える事があります。
あの子には、確かに、あなたの血が流れているんですね。
あなたは、そちら側にいるけれど、
また、こちら側にもいる、と言う事でしょうか。
あの子の言葉は、私の中に、静かに入り込み、あなたを想いました。