あなたへ
あなたに伝えたかったことがあります。
あれは、あなたが入院し、一般病棟に移ってから、暫くが経った頃だったでしょうか。
あの子の、武道のお稽古の間に、
私ひとりで、あなたに逢いに行った日の事でしたね。
あなたは、なかなか退院することが出来ず、イラつきと落胆。
そんなふうに、後ろ向きになっていたあなたの口から出た言葉は、
こんな体になるなら、助からなければ良かった。
私に苦労を掛けるくらいなら、生きていたくないと、こんな後ろ向きな言葉でした。
あの子が一緒にいる時には、決して見せなかった、
弱気なあなたの顔に、私は、ただ、
そんなこと言わないで。大丈夫。
そう、繰り返すばかりでしたね。
あなたの体が、どこまで元に戻るか、分からなかったあの頃。
先の事は、退院してからでいい。
何も心配いらないよ。
今は、ゆっくり休んで。
あの時、喉元から出掛かった言葉は、全部飲み込みました。
あの時のあなたには、何を言っても聞こえない。
きっと、余計に焦せらせるだけだと、
そう感じるほどに、あなたは、ひとりで、苦しんでいるように見えて、
ただ、寄り添う事しか出来ませんでした。
本当はね、
あなたが退院してから、伝えたかったことがありました。
今まで、私たちを守ってくれて、ありがとう。
これからは、私が、あなたのことも、あの子のことも守るから、
だから、心配しないで って。
その言葉は、絶対に、退院したあなたに伝えることができる。
そう信じていたから、あの時、私は・・・
伝えれば良かった。
あなたが生きていてくれれば、ただ、それだけで良かった。
だって、私たちは夫婦だもの。
助け合って生きていけたらって、そう伝えたかった。
ねえ、あなた
聞こえますか?
私は、ただ、あなたに側にいて欲しかった。
それだけで、良かったんですよ。