平坦で石ころのひとつも落ちていない道の
ど真ん中でうずくまった
彼が守ってくれていた世界は
もう何処にもないのに
怖くて踏み出せない一歩に
私は自分の足を呪った
自分の居場所はここではないと
分かっているのに
一歩が踏み出せない私は弱虫だ
坂道でもなく
石ころに躓いた訳でもなく
ただ一歩踏み出すことに躊躇した
どうして進まなければならないのか
そんなの決まってる
彼が行きたかった場所へ行くためだ
彼が目指した場所は遥か遠く
こんなところで座り込んでいたら
見えるわけがない
分かっているのに
ここから動くことが出来ない
だって怖いんだ
いっそのこと
このまま夜になってしまえばいい
星ひとつ見えない暗闇に包まれてしまえば
前に進むことが出来ない口実が作れるのに
弱虫な私を暗闇に隠しながら
言い訳をする準備は出来ているというのに
そんな私の気持ちとは裏腹に
見上げた空には
力強い太陽がこっちを見てる
立てばいいんでしょ?
ため息を吐きながら
ようやく立ち上がった私は
生まれて此の方
一度も成功したことのなかった逆立ちに
挑戦してみたくなった
運動が得意ではない私にとって
それは彼がいないと出来ないことだった
彼が側にいてくれた頃
よく逆立ちを手伝って貰っていた
いや
手伝って貰うと言うよりは
全部彼がやってくれていた
という表現が正しいのかも知れない
彼は私の足を持ち上げ
支えるに至るまで
全部やってくれていたのだから
私ひとりでは出来るわけがないと思いながら
振り上げた私の足は
何故か綺麗に上がり
私の目に映ったのは
初めて自分の力で見た逆さまの世界だった
あぁ なんだ そういうことか
逆さまの世界を見つめながら納得した私は
弱虫の抜け殻をひとつ見つけたんだ
限界まで逆立ちをしてから
足を下ろした私は
さっきまでの私ではなくなっていた
何故だかこのまま一歩進める気がした
あといくつ弱虫の殻を破れば
彼が行きたかった場所に
辿り着く事が出来るだろうか
またいつか
平坦な道のど真ん中にうずくまって
暗闇に包まれることを待つ日が来るのかも知れない
だって私は弱虫だから
その時にはまた自分の弱さを嘆きながら
存分にそうした後で
きっとまた何かに挑戦するのだろう
大丈夫
私には出来ない事がたくさんある
その度にひとつずつ
弱虫の殻を脱ぎ捨てて
一歩進む勇気を手に入れるのだろう
彼が行きたかった場所に辿り着くまで
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