あなたへ
あなたを見送ってから、ずっと、
私には、触れられないものがありました。
あなたの仕事用の、オレンジ色のバッグ。
毎日、あなたと一緒に、仕事に出掛けていたそれは、
あまりにも特別である気がして、
ずっと、向き合えないでいたあなたの遺品でした。
引越しの際に、手早くダンボールに詰めたまま、出すのが辛くて、
ずっと、そのままの形で押入れにしまっていたあなたのバッグ。
先日、ふと、
あなたが、自分で決めて歩んだ道を、見てみたいと思った私は、
思い切って、
ダンボールを開けてみることにしました。
あなたは、
このバッグを買った日のことを、覚えていますか?
あの頃は、バイクで通勤していたあなた。
荷物をひとつにまとめられる、丈夫なバッグがいいな
暗くても目立つように、明るい色のバッグがいいよね
こんな話をしながら、
家族3人で、意見が一致したのは、オレンジ色のバッグでした。
これがいいね って。
11ヶ月振りに見たあなたのバッグ。
よく見ると、汚れていて、角に小さなほつれがありました。
いつだったか、買い替えを提案したけれど、
すぐに汚れてしまうし、
このバッグが使いやすいからと、
長い間、愛用していましたね。
バッグについた汚れにも、ほつれにも、
あなたと一緒に、重ねた時間が見えました。
バッグの中には、
予備の着替え
名刺入れ
カードケース
文房具
きっと、あなたにとって、1番使いやすかったであろう工具
毎日、あなたと一緒に、仕事に出掛けていたそれらは、
とても、あなたらしいやり方で、収まっていました。
カードケースを手に取った私は、
一枚ずつ、中身を確認しました。
色々な資格の修了証、入門証。
それぞれについた、あなたの顔写真。
ねぇ、見てよ。この写真の俺、人相悪くない?
これは、
6年前に取った資格の、修了証の写真を見せてくれた時の、
あなたの言葉でしたね。
あの時は、新しい資格を取ったあなたに、お祝いの言葉よりも先に、
家族3人で、大笑いしましたっけ。
6年前のあなた
4年前のあなた
体調を崩す2ヶ月前のあなた
どのあなたも、
私がよく知っている、仕事を頑張ってくれていたあなたの顔でした。
たくさん、頑張ってくれましたね。
ありがとう。
長い間、お疲れ様でした。
あなたを見送ってから、ずっと、向き合うことが出来なかった、
あなたのオレンジ色のバッグ。
そこには、
あなたが、たくさん頑張ってくれていた証が詰まっていました。
近頃の私は、自分に自信がありません。
あなたを見送り、ひとつずつ、目標を達成してきましたが、
ここに来て、悩んでいます。
これから、どんなふうに、行きて行くか
今、自分が進もうとしている道は、正しいものなのか
何も、分からなくなってしまいました。
そんな後ろ向きな私が、
ずっと向き合えないでしたオレンジ色のバッグと向き合おうと思ったのは、
もしかしたら、
私の答えが、
そこにあるかも知れないと思ったからなのかも知れません。
あなたのバッグの中には、
あなたが出した答えが詰まっていました。
残念ながら、そこに、私の答えは見つかりませんでしたが、
今の私に、足りないものを教えてくれました。
私に足りないのは、
あなたみたいな、力強さ
自信を持って、力強く前に進んでいたあなたの想いが、
それを教えてくれました。
ありがとう。
次は、いつ、
あなたのバッグを見たいと思う時が来るでしょうか。
次に、あなたのバッグを見た時には、きっと、
その時に、私に足りない別な何かを、教えてくれるのかも知れませんね。