あなたへ
あれは、私が初めて、
レンコンの料理に挑戦した日のことでした。
食卓に並んだ料理を嬉しそうに眺めながら、
あなたは、言ったのでした。
これ、作ったの?凄いね
俺、レンコン好きなんだ
知ってた? って。
予想に遥かに超えた、あの時のあなたの嬉しそうな顔。
今でも、よく覚えています。
あなたが、あまりにも喜んでくれたから、
あれから、何度もあの料理を作りましたっけ。
あなたを見送り、
なんとなく、作る機会を失ったままでいた、あなたのお気に入りだったあの料理を、
急に、作ってみようと思い立ったのは、
何故だったのでしょうか。
材料の準備も、作る手順も、少しも迷うことなく進めながら、
私は、あの頃のあなたのことを思い出していました。
この料理を作るまで、
あなたが、レンコンが好きだということを知らなかった私。
食卓に並ぶまで、何も言わなかったのは、
料理が苦手な私に、
気を使ってくれてのことだったのでしょうか。
時々、不意に、これが好きだと喜んでくれたあなた。
私が知らない、あなたの好きな食べ物は、
まだまだ、たくさんあったのでしょうか。
料理は、相変わらず、得意ではありませんが、
それでも、
今なら、あの頃よりも、
もっと、あなたの喜ぶ顔を見ることが出来たのだと思います。
思えば、
私を、どの角度から見ても、
「あの頃より、今」なのかも知れません。
もしも今、あなたが此処にいてくれたのなら、
あの頃、私が知らなかった、
あなたの好きな食べ物を、新たに知ることができたのでしょう。
私は、あなたに、
まだまだ、してあげたかったことがたくさんありました。
涙を拭いながら作った、あなたのお気に入りの料理は、
ちょっとだけ、味が濃くなってしまいましたね。
ごめんなさい。
次は、もっと上手に作るからね。