あなたへ
ホームセンターへ出掛けると、
無意識に工具売り場を覗き、
つい、あなたを探してしまうところは、
あの頃のまま、私は、何も変わっていません。
何故ならそこは、
100%の確率で、あなたを見つけることが出来る場所だったから。
工具が好きだったあなたにとって、
ホームセンターは、大好きな場所のひとつでしたね。
ホームセンターであなたとはぐれたら、
工具売り場へ行けばあなたがいる
そう気が付いたのは、
家から離れた大型のホームセンターへ出掛けた日のことてした。
あの日、買い物をしている間に、あなたとはぐれてしまった私。
闇雲に探しても到底見つかりそうにない程の広過ぎる店内を見渡しながら、
あなたなら、何を見に行くだろうかと、考えながら、
真っ先に、工具売り場へと向かったのでした。
携帯電話。
そんな便利なものが手元にありながら、
あなたに電話を掛けずに、そこへ向かった私は、
今思えば、無意識の中に、小さな自信があったからなのかも知れません。
工具売り場へ到着すると、
楽しそうに工具を手に取り眺めるあなたを見つけました。
豊富に揃った工具売り場のある、あの大型のホームセンターは、きっと、
あなたにとって、宝物が詰まった場所だったに違いありません。
だって、あの日のあなたの横顔は、
なんだか、少年みたいにキラキラしていたもの。
あの日は、あなたが知らないあなたを見つけた日。
あなたとはぐれたら、
工具売り場に探しに行けば、絶対に見つかるんだよ
あの日、こんなことを言った私に、
そんなことないよ
なんて、あなたは、笑っていたけれど、
あれからの私は、密かにその確率を立証すべく、
ホームセンターで、あなたとはぐれる度に、
真っ先に、工具売り場へと向かったのでした。
そこに行けば、あなたに会える確率。
それは、100%でした。
あなたを見送り、
ホームセンターへ行く機会は、随分と減りましたが、
ホームセンターへ出掛けると、無意識に工具売り場を覗いては、
あの頃みたいに、
私には、どれも同じに見えてしまう工具を真剣に、
そして、楽しそうに眺めるあなたを探してしまうのです。
そこに知らない顔の方が、工具を選ぶ姿を確認し、ようやく諦めると、
胸の奥の小さな痛みに気付かない振りをして、用事を済ませ、
そそくさと店を出て、小さなため息をひとつ。
それでもきっと、
私はこれからも、ホームセンターへ行く度に、
無意識に工具売り場を覗いてしまうのでしょう。
100%の確率で、あなたに会える場所。
そこだけは、
あの頃のまま、
時間が止まっているような気がして。