彼がこの世を去ってから、もうすぐで4年と8ヶ月を迎えようとしている━━━。
あれから私は、少しは強くなれただろうか。
窓から空を見上げ、これまでのことを思い出していた私の携帯電話の着信音が聞こえる。
画面を見ると相手の番号は、見たことのない変な番号だった。
━━━いや、これは『番号』と呼べるのだろうか。
例えば、080とか090とか、03とか、そんな始まりの番号ではなく、何故か絵文字から始まる番号。
迷わずに電話に出てみようと思ったのは、その絵文字が、なんだかとても楽しそうに笑っていたからだった。
携帯電話を耳に当てると、相手はすぐに喋り出した。
「あっもしもし?俺ですけど。あぁ、良かった。繋がったよ。
元気にしてる?突然だけど、明日、帰れることになったよ。」
それは、紛れもなく、彼の声だった。
電話の向こうの彼は、一方的に早口で話すと、
「ヤバイ、電池がなくなっちゃうよ。また明日ね。」
そう言って、電話が切れた。
私が一言も口を挟む間も無く、電話は切れてしまったけれど、それでも、私は、とても嬉しい気持ちで携帯電話を見つめた━━━ところで目が覚めた。
彼から電話が来る夢を見た。
寝起きと共に、思わず、携帯電話の着信履歴を確認してしまったのは、それ程までに、彼の声がリアルな夢だったからだ。
着信履歴を確認し、小さくため息を吐くと、窓の外が暗いことを確認しながら、布団から出た。
私は、数ヶ月前から、早起きを始めた。
時には寝坊してしまうこともあるけれど、早起きをしたいという姿勢は崩れることがなく、緩く続けることが出来ているのは、楽しいからだ。
日が昇る前の静かな朝は、音のない世界にいるようで、とても心が安らぎ、1日の中でも、一番好きな時間になっていた。
あんなに早起きが苦手だった私が、今は早起きが好きになっているだなんて、なんだか笑ってしまう。
朝起きて、まずはコーヒーを淹れる━━━。
音のない時間。
私が微かに立てる音だけが聞こえるこの時間は、自分の好きなことをする。
私は、この時間が大好き━━━なはずなのに、今日の私は、朝から、気持ちが沈んでいた。
彼がいないこの世界。
私はたったひとりになってしまったような孤独感に苛まれ、胸が苦しくなった。
朝からこんな気持ちになるのは、昨夜見た夢が、あまりにも幸せな夢だったからかも知れない。
もっと、楽しいことを考えよう━━━。
あの日、彼がこの世を去ってから、時々、私に襲いかかる、不安とか、悲しみ、寂しさ━━━知っている言葉を全部並べても、表現しようのないあの感情を振り払うかのように、コーヒーを淹れる準備を始めた。
キッチンに立ち、マグカップを準備すると、
「俺にもコーヒー淹れてよ。」
後ろから、確かに聞き覚えのある声が聞こえた。
驚きながら、顔を上げようとすると、微かな目眩のような、これまでに経験したことのない感覚に襲われた。
軽く頭を振りながら、顔を上げると、私の瞳には、よく知っている風景が広がっていた。