ここへ3人で来るのは、何年振りだろうか。
いつか、彼とあの子が転がって遊んだ芝の坂の上に3人並んで座ると、ジュースを飲みながら、少し、休憩することにした。
最後に3人でここへ来た時、彼もあの子も芝だらけになりながら、この坂を転がっては、笑っていたんだ。
そんな2人に釣られるように笑いながら、私は2人の写真を撮ったんだった。
菜の花は満開に咲き、目の前に広がる色鮮やかな黄色の世界に暫くの間、見惚れながら、あの頃のことを思い出していた。
ここは、とても静かな公園。
日曜日であるにも関わらず、私たち以外は誰もいない。
相変わらず、とても静かだった。
「かくれんぼしようよ。」
突然思いついた私の誘いに、彼らは、いいねと賛成してくれた。
これまで、家族3人で、公園で遊ぶことはたくさんあったけれど、かくれんぼをするのは、初めてだ。
ワクワクしながら、坂を降りて、ジャンケンをすると、あの子が鬼になった。
あの子が数を数え始め、彼と私は、走って隠れ場所を探した。
木の陰、看板の裏━━━。
他にも隠れられそうな場所はあったけれど、私は、菜の花畑をグルッと回って、あの子から見て、畑の一番後ろ側にしゃがんで身を隠した。
彼もここに隠れようと考えていたらしく、私のすぐ隣に、しゃがみ、菜の花の間から微かに見えるあの子の姿を確認していた。
そうして、彼は笑いを堪える私の腕を強く引っ張り、
「もっとこっちおいで。」
そう言って、突然に、私を強く抱きしめた。
彼は、時々、こうだった。
あの子から見えないところで、
時々、こんなふうに、ギュッて私を抱きしめるんだ。
暖かな風に乗った春の匂いに混ざって、彼の匂いがした。
彼に身を預けながら、私は、少しの間、目を閉じた。
私は、今、本当に幸せだ。
「このまま、時間が止まっちゃえばいいのに。」
思わず、小さな声でそう呟いた私の耳元で、彼は微かに笑いながら言った。
「何言ってるの。時間が止まったら、前に進めないよ。」
そうして、より一層、強く私を抱き締めると、更に彼は言った。
「でも、もしも永遠にこのままでいられるなら、俺だって━━━。」
「見つけた!」
突然のあの子の声に、遮られ、彼の言葉はそれ以上、続けられることはなかった。
「あれ?なんか俺、邪魔しちゃった?」
なんて、茶化すあの子に、
「邪魔じゃないよ。お前もこっち来い。」
そう言って、彼はあの子を引っ張り、3人で抱き合うような格好になってしまった私たちは、なんだかとても可笑しくて、そのまま、3人で抱き合いながら、たくさん笑った。
目の前に広がる菜の花畑は、より一層、色鮮やかに見えた気がした。
これは、あの頃から何も変わらない、私たち3人の、家族の形だ。
再び、坂の上に戻った私たちは、彼を真ん中に、あの子も私も、彼の膝に頭を乗せて、空を見ていた。
ただ、こうしている時間が、とても愛おしい。
遠くの空が、薄いピンク色に染まっていく━━━。
「寒くなって来たな。そろそろ帰ろうか。」
私の髪を優しく撫でながら、彼は言った。
そうか。前から楽しみにしていた━━━らしい、今日が終わっちゃうんだ。
今の私には、幼い子供が、まだ帰りたくないと駄々を捏ねる気持ちがよく分かる。
泣き出したい気持ちを抑えながら、ノロノロと起き上がった。
「今日は、楽しかった?」
彼は突然、私を擽りながらそう聞いてきた。
彼には、なんでもお見通しだ。
私の元気がない時、落ち込んだ時。
私が笑わない時に、彼は必ずこうして、私を擽ぐるんだ。
体をよじって、笑いながら、楽しかったと答えた私の声に満足そうな顔をした彼は、今日の夕飯のリクエストをした。
「今日は、俺、豚汁がいいなぁ。材料揃わなくてもいいからさ。あと、ナポリタンが食べたい。それで、デザートは杏仁豆腐を作ってほしいな。」
「え?豚汁とナポリタンって、変じゃない?」
そんな私の言葉に、彼は、今日だけは俺の我儘を聞いてほしいと言う。
あれ━━━?
私は、ほんの少しだけ、胸の中に仕えが出来たような、
小さな違和感を覚えながらも、それに気付かない振りをした。