あなたへ
先日の朝のことでした。
俺ってさぁ、
反抗期の時、お母さんに随分と酷いことをしたよね
寝起きから、突然、こんなことを言い出したあの子。
聞けば、前日の夜、眠る前に、
突然、中学生の頃のことを思い出したようでした。
あれは、あの子が中学3年生の頃のこと。
武道のお稽古へ送って行った車内で、
些細なことから、口論になったことがありました。
和解する間もないまま、お稽古場へ到着すると、
怒りながら車を降りたあの子は、いつもの挨拶もないままに、
黙って、車のドアを強く閉めたのでした。
あの日のことを急に思い出したあの子は、
随分、酷いことをしたと考えながら、
眠れなくなってしまったと話してくれました。
そして、
この場を借りて、謝罪いたします
申し訳ありませんでした
なんて、深々と頭を下げたあの子。
そんな姿を笑って見つめながら、
私は、すっかり忘れていた、あの日の出来事を思い出していました。
あの頃の私は、
あの子の反抗期の到来を、密かに喜び、安心していたのでした。
あなたを見送り、私に寄り添うように生きてくれたあの子。
私に遠慮して、人並みに反抗期を迎えられないまま、
大人になってしまうのではないかと、心配していた私を他所に、
立派に反抗期の姿を見せてくれたことに胸を撫で下ろしていた私にとって、
あの出来事は、ほんの小さな出来事に過ぎず、
記憶の奥へと仕舞われた、些細な出来事でした。
全然、気にすることじゃないよ
そう言いながら、
あの頃の私が考えていたことを、あの子に話すと、
親ってそういうものなの?
なんて、言いながら、
それでも、あの頃の自分の態度は、随分と酷かったと、
何度も口にしたあの子。
自分の反抗期を振り返り、反省している様子を見せてくれたあの子は、
また一歩、大人へと近づいたようです。
ひとつひとつ、その成長を見せ続けてくれるあの子は、
こうして恩返しをしながら、
自分の夢と目標に向かって、巣立つ準備を始めたのかも知れませんね。
大きくなったね
思わず、そう呟きながら、
私は、あなたのことを考えていました。
ずっと、あなたと一緒に、見守りたかったあの子の成長。
もしも今、あなたが隣にいてくれたのなら、
今のあの子の姿に、あなたは、何を思うのでしょうか。