あなたへ
俺ね、今の自分、好きなんだ
あの子がそう話してくれたのは、
あの子の将来の夢について話し合っていた時のことでした。
今の自分がいるのは、
お父さんが此処にいないからなのだと、
あの子のそんな話に、
辛く、悲しく思いながらも、
私は、惹きつけられるように、耳を傾けました。
もしも、お父さんが生きていたらね
今の自分は、此処にいなかったって思うんだよね
いや、確実にいないよ
多分、色々なことを真剣に考える機会がないままに、
この年齢になっていたと思うんだ
もちろん、
お父さんがいなくて良かったなんて、少しも思わないよ
お父さんがいてくれたらって、何度、そう思ったか分からない
でも、お父さんがいる今の俺は、
もっと、全然違う俺だったと思う
その自分を、俺は、自信を持って、好きになれていたのかな
想像もつかないけれど、
俺は、今の俺で良かったなって思うんだ
あの子の話は、とても悲しいのに、前向きで、
私の胸の奥を、ギュッと掴みました。
もしもあなたが此処にいてくれたら。
口に出さなくとも、あの子だって、
きっと、何度も考えたことだったでしょう。
あの子は、格好いいあなたのことが、大好きだったもの。
でも、
もしもの世界は、此処にはありません。
あの子はあの子のやり方で、
その悲しみに向き合い、
そうして、今の自分と出会うことが出来たのだと思います。
あの子の言葉に、胸が苦しくなるけれど、
でも、今のあの子に、
自分を好きだと思わせてくれたのは、
あの日、手を離さなければならなかったあなただと思うのです。
あの子の話は、たくさんのことを考えさせられました。
あなたがしてくれていたことを、
ひとつずつ出来る様になった今の自分も、
歩んでみたいと思う道を見つけた今の自分も、
私もまた、嫌いではないのです。
私は、今の自分を好きかと聞かれたら、
まだまだ足りないものが多過ぎて、
あの子みたいに、自信を持って頷くことは、まだ出来ません。
それでも、いつか必ず、
胸を張って、
今の自分が好きだと、あなたに報告出来るようになりたい。
こんな今の私がいるのもまた、あなたのお陰です。
私たちは、もしもの世界を見つけることが出来なかった変わりに、
今の自分を見つけました。
生きるって、
時に、とても矛盾していて、悲しくて、
苦しいものなんだね。
私と出会ってくれたあなたへ、
あの子に生をくれたあなたへ、
私たちは、いつでも、
あなたへのたくさんのありがとうの気持ちを持ち続けながら、
ここから先も歩み続けていくのでしょう。