『愛する夫と息子を遺して、こんなことになるなんて!
なんてことなの?』
まずは叫んでみた。
こんなに大声で叫んでいるのに、誰も見向きもしない。
夫と息子に看取られて、私は、たった今、息を引き取った。
半透明の自分の手のひらを見つめて、小さく溜息を吐いた。
相変わらず、
私の肉体から手を離そうとはしない彼とあの子の名前を呼んでみたけれど、
こちらを見ようともしない。
私の大好きな季節。
夏の暑い日に、私は、死んだらしい。
彼と私の息子、あの子は、まだ中学生になったばかりだ。
まだまだ、あの子の側にいたかった。
彼と一緒に、あの子の成長を見守っていたかった。
2度目のため息は、随分と大きなため息だった。
こうなっても空を飛べるわけでもなければ、
瞬間移動が出来るわけでもないらしく、
2人の後をついて歩き、
大人しく彼らと一緒に車へと乗り込んだ。
『思っていたより、ずっと地味だな・・・』
思わず、乾いた笑いが漏れた。
『ねぇ、死んだ瞬間から、
空を飛んだり、瞬間移動したり出来ると思わなかった?
なんか地味だよね。』
いつもの調子で彼らに話し掛けてみたけれど、
相変わらず、こちらを見てはくれない。
車内の2人の顔を覗き込めば、2人とも泣き過ぎて目が腫れている。
彼は、ジッと前を見据えて運転しながら涙を堪え、
あの子は俯いて、握った手の甲で静かに涙を拭いていた。
『私は、ここにいるよ。』
私にしか聞こえない声を最後に、車内は、再び静まり返った。