意味もなく、家の中をウロウロする彼に、
私は何度、同じ言葉を掛けただろう。
『ねぇ、あなた、ご飯食べて?』
何度もそう問いかけているのに、彼は全然話を聞いてくれないの。
あの子にだけご飯を食べさせる彼は、何をするでもなく落ち着かない。
『ねえ!このままじゃ倒れちゃうよ!
あなたに何かあったらどうするの?
ねぇってば!なんでもいいから口にして?』
相変わらず、家の中をウロウロと歩き回る彼について歩きながら、
私は、しつこく同じ言葉を掛け続けた。
彼は、毎食、あの子にだけ食事を準備し、
お父さんは後で食べるからと、一緒に食事を摂ろうとはしなかった。
「お父さんご飯食べて。俺が準備したから。全部残さないで食べて。」
あの子に、私の意思が伝わったのだろうか。
いつの間にか食事を終えたあの子は、彼のために食事を準備していた。
テーブルの上を見てみると、
大盛りのご飯の上に、卵が乗っている。
心配そうに彼を見つめるあの子の頭を撫でると、彼は力なく笑った。
「ありがとう。」
そう言って、
あの子が準備した卵かけご飯を、
無理矢理に飲み込むように、胃の中へと押し込んだ。
私は、こんな彼を知らない。
彼は痩せているけれど、たくさん食べる人だ。
こうなってみて初めて、
私の知らない彼を、たくさん見つけた気がする。