彼は、仕事へ復帰し、
あの子も夏休みが終わり、学校が始まった。
私だけが此処にいないままに、彼らは、
少しずつ、日常生活に戻りつつある。
私に、死後のイロハを教えてくれたのは、
花火大会でお会いした、お義父さんだった。
肉体を持たない今、私は、彼とあの子、同時に側にいることが出来る。
あの子は学校へ行くと、友達に囲まれながら、
私がよく知っている笑顔を見せるようになった。
屈託なく笑うあの子の姿に安心する。
あの子は、きっと大丈夫。
姿が見えないことをいいことに、
堂々と、あの子のすぐ側で、見守りながら、安堵した。
『その笑顔が大好きだよ。ずっと、笑っていてね。』
あの子の頭をそっと撫でると、
一瞬、不思議そうな顔をして私の方へ顔を向け、
また友達へと笑顔を向けた。
彼は、真面目に仕事へと向き合いながらも、
ふとした時に、辛そうな顔をする。
例えば、休憩時間などには、仕事仲間との談笑から、そっと離れて、
ひとり、空を見上げながら、小さなため息を吐いた。
そんな彼の姿に、私は、どんな言葉を掛けていいのかも分からないままに、
ただ、彼の側へと寄り添った。
でも、私は、知っている。
彼なら、絶対に、大丈夫。
彼は、いつの日か、悲しみや苦しさ、全部をバネへと変えて、
生きて行こうとする自分を、必ず見つけるはずだから。
その時の彼は、きっと、
私が知っている彼よりも、ずっと、強い力を発揮するのだろう。
ただ、彼の側に寄り添いながら、先の未来を想像してみた。
その人生を一緒に歩むことは、もう出来ないけれど、
いつの日か、彼は自力で立ち上がり、
今よりも、もっと、
素敵な人へと成長していく彼を想像することが出来た。
時間は、掛かるのかも知れない。
それでもいつか、彼なら、必ず辿り着くはず。
だから、絶対に、大丈夫。
『あっ!ねぇ見て?飛行機雲だよ。』
彼が見上げていた空とは別な場所に、飛行機雲を見つけた私は、
彼にも見せてあげたくて、思わず声を上げた。
彼は、まるで私の声が聞こえているかのように、
私が指差す方の空を見上げて、
ほんの少しだけ、微笑んだように見えた。